よいしょ、っと……。
…………。
あ……。
こ、この机……。 先生に言われてね、 片づけることになったんだ。
そう……。
ほ、ほら…… 事件も、もう解決したことだし……。
そうね。
でも、まさか あの人が……先生を……。
ごめん。 そんな話、したくないよね。
気にしなくていいわ。
このラクガキ、消してないのね。
『あなた誰なの?』
あ……うん。 消したほうがいい……かな?
どうして?
なんとなく、縁起悪いし……。
…………。
どう思う?
別に……。 何も思わないわ。
……やっぱり、これ消すよ。
清掃用の道具とか借りてくるから……ちょっと見ててくれる。
…………。
ここで待ってて。すぐ戻るからね。
わかったわ。
先生、ありがとうございます。
清掃用具出しただけで…… そんなに感謝するなよなあ。
それじゃあ、 教室であの子を待たせてるんで……。
おいおい。 あの子って、あいつのことか。
そうですよ。 先生が犯人を捕まえたときの、 あの子です。
待てよ。 あいつにはかかわるなって、 言ったはずだぞ。
あいつには、見えてるんだ。
見えてるって、何がですか?
あいつはな、 みんなに見えていないものが 見えているんだ。
はぁ……。 それじゃあ、これで。
あいつには……。
あいつにしか見えていない、 何かが見えているんだろうさ……。
よう──。
こないだは、悪かったな。
いいえ。
今から帰るのか。
はい。
じゃあな。 気をつけて帰れよ。
……なあ、今も見えてるのか。
ええ。
私はもう、 見えなくなったけれどね。
犯人が捕まって、 死んだ先生の姿は見えなくなった。
無念が晴れたとか…… まあ、そういうやつなんだろうな。
それなのに──。
どうして おまえには、まだ見えているんだ?
私に見えているのは、 先生のおっしゃる霊感とか ──そういうものとは違うんです。
何が違うんだ。
違うんです。 それだけですよ。
彼は── 先生を殺した人は、 どうしてかはわからないけど──。
私と同じものが、 見えるようになってしまった。
それが怖くて、 自分のしたことが怖くて──。
それで、 ああなってしまったのだと思います。
……そういうことなのかもね。
今も……。
すぐそこにいますよ。 ずっと、こっちを見ています。
ん……。
信じられないなら、 先生も聞いてみてください。
それでは、私はこれで。
おう。お疲れさん。
…………。
やれやれ……。
今も、見てるのかな……?
なあ……。
『あなた誰なの?』