んにゅ……。もう四時かぁ、今日も寝たなぁ。
今日も今日とて熟睡することが出来た。今朝六時に床に着いたのだから、この時間に起きることは当たり前のことだ。
つまり、もちろんのことだが、今日はもう学校には行けない。もとより行くつもりはないのだが。
世間との関わりを好まない私に、学校などという馴れ合いの環境は必要無い……きゃうぅっ!
な、なになにぃ……? 窓から音がした気がしたんだけど……。
私としたことが取り乱してしまった。おそるおそる件の窓へと近づいてみる。
特になにも無いみたいだけど……。 うぅ……なんなのよぉ……。 日差しがキツイなぁ……。 あとおなか空いたし……。
……? 下から声がする。
億劫ながらも、私はベランダの下へと視線を落としてみる。
……。
……!
う、うん! すぐ行くから……待っててね!
……。
……。
先程も言った通り、私は世間との関わりを好まない。 しかしそんな私にも友人の一人くらいいる。
どうぞー。
はいありがとう。 今日も学校に来なかったのね。どうせ夜遅くまでゲームでもしてたんでしょう。
うぐっ……。
その友人というのが、彼女。 彼女の名前はユウ。夕焼けの夕と書く、なかなか洒落た名前の持ち主である。
んもぅ……ゆ、夕ちゃんには関係無いでしょう?
あるわよ。あなたがこうやって休む度に、私は配布物をあなたに……キャッ!?
ちょっと待ったー!! 私だっているよ! 配布物を届けてるのはタっちゃんとこの私だよ!
むむ……。
この女の存在をすっかり失念していた。この女は常に夕のそばにくっついている、言わば私の宿敵と言ったところか。
説明しても仕方がないが、一応名前だけでも紹介しておく。 彼女の名前はナツ。捺印の捺という字を書く、珍しい名前をしている。
ああ、なっちゃん。いたの。
うっわビックリした! お邪魔して早々にお邪魔に扱われてるよ私!
ねぇ見た今の!? 私への当たりの強さを!
まぁ仕方がないんじゃないかしら。だってあなた、うるさいもの。
針のむしろ! これが噂の針のむしろってやつですか!!
あぁうるさい……。この女が喋り始めた途端、一気に周囲のリズムが崩れてきたのが分かる。
私と夕の他愛もない会話の流れを、平気で侵してくる。 どうして夕はこんな女と一緒にいるのだろうか。
それとあなた。私のことを「タっちゃん」と呼ぶのはやめてくれないかしら。
え? どうして? いいじゃんタっちゃん。漢字の夕とカタカナのタが似てるからひらめいた私の渾身のニックネーム!
ま、まぁ確かに面白いけど……。テストの時とか、名前書く時になんだか変に意識するようになっちゃったのよ。
これはちゃんと漢字の夕の方に見えてるかなぁって心配になっちゃうっていうかね。
……どっちでもいいんじゃない?
よくないよ! 興味無しかよ!
夕が困ってる。 四六時中こんな風にされたら夕は疲労で死んでしまう。
私が。私が夕のそばにいてあげなくてはいけない。この狂人から夕を守れるのは私しかいない。
……もん。
え? 何か言ったかしら?
私、明日学校行く……もん。
あら、珍しいのね。じゃあ待ってるわね。
え! 学校来るの! それじゃあ明日はお弁当三人分だね!
別になっちゃんに言ったわけじゃ……
……お弁当?
うん、私最近お弁当作りに凝ってて、毎日タっちゃんの分も作ってあげてるんだ。
いつ飽きるか見ものね。
ふふ、今回の私はいつもより気合が違うからね! そう簡単に飽きることはないよ!
で、あなたの分も作ろうかなあと思ってさ、どう? 食べる?
……。
も、もちろんいただきま……
……!
い……いただきます。
よし決まり! じゃあ明日、絶対に来てね!
そうよ。来なかったらお弁当ひとつ余っちゃうんだから。
……うん。
それじゃあね。
う、うん。また明日。
……。
夕ちゃん、待っててね。
待っていろ。捺。
そしてお弁当。お前も待っていろ。