Ep.02 えんがちょ的な、あれ
とある朝、いつものようにHRが終わってからのことでした。
おい、今の聞いたかよ!?
ユキコってば、昨日歯を磨くの忘れたんだってよぉー!
わ、わざとじゃないもん!
昨日は歯を磨く前に、眠たくなっちゃって、それで・・・。
なに言い訳してんだよ!
歯磨きしないと、口くっさくなるんだからなー!近づくなよなー。喋るなよなー。
そ、そんなぁ・・・。
おい、みんなー!ユキコに近づいたら、口くっさいの感染るから気をつけろよー。
「まじかよ!?」「やっべー、ユキコ菌だ、ユキコ菌!」「ユキコに触られたらユキコ菌もらうぞ!」
わ、わたし・・・そんな菌、もってないもん・・・ッ!
クラスの男子たちはそろって、たった1回、歯磨きをし忘れたユキコを冷やかしていました。
他の周りの生徒たちは、何も言いませんでしたが、ただそれとなくユキコとは距離を置いて傍観するだけでした。
うっ・・・、ぐす・・・、うぅ・・・ッ!
ユキコの小さな嗚咽が、男子達の笑い声に混じって、教室の中に漏れ出しました。
ユキコは堪えきれなくなって、教室の外へ向かって駆け出そうとした時。
・・・ボクもさぁ、昨日歯磨きするの忘れたンダな。
え、マジで?熊猫もかよぉ! くっせー!今日はずっとしゃべんなよなーッ!
ボクの口の中・・・今まさに「熊猫菌」がうじゃうじゃ繁殖して、外に飛び出そうとしてるンダな。
気持ち悪ッ!あっちいけよ、熊猫!
「熊猫菌」はね・・・、「ユキコ菌」よりも、もっと性質が悪いの知ってる?
一度感染ったら、口がくさくなるだけにとどまらず、歯茎が弱って、最後には歯がボロボロ抜け出すンダな・・・。
その男子に向かって、ずんずん近づいていく熊猫くん。
ひ、ひぃ・・・ッ!
ほらほら・・・、お前らにも感染してやるンダな!
ぎゃーーーーッ、熊猫に触られたーーーッ!
男子の悲鳴を皮切りに、教室中は大パニック。逃げまどう生徒たち。
熊猫くんから始まった「熊猫菌の擦り付け合い」ゲームは、どんどん拡散してクラスから飛び出し、
最終的には、学校全体を巡る現象にまで大きくなってしまいました。
そして、事の発端となった熊猫くんは、先生に呼び出され、お説教を喰らうハメに。
ふぅ・・・。
く、熊猫くん・・・。
ユキコちゃん!
なんかゴメンね。私のせいで、熊猫くんまでみんなにヒドイこと言われちゃって・・・。
くんくん。
・・・・・・ッ!ちょっとッ、熊猫くん!?
・・・大丈夫なンダな。ユキコちゃん、全然口くさくないンダな。
熊猫くん・・・!
歯磨きって、けっこう面倒くさいンダな。1回2回サボっちゃうことだって、珍しくないンダな。
ありがとう・・・熊猫くん。私、これからは歯磨き、ぜったいに忘れないから!
それからしばらくして、「熊猫菌」の一件は事態の収束をたどり、皆の頭から忘れ去られたきた頃。
く、熊猫くん!?どうしたの、その顔!
熊猫くんは、どうやらホントに虫歯になってしまったようで、顔じゅうに包帯を巻いて登校してきました。
次からはぜったいに、歯磨きわすれない・・・。
涙ながらに、熊猫くんはそう胸に誓ったのでした。
続く。