Ep.03 柔軟剤はいらない
帰り路、突然の夕立に遭い、私は慌てて雨をしのげる近くの軒下へと避難する。
まいったなぁ・・・、まさか降ってくるだなんて。。。
傘、もってきてないよぅ・・・。
ジャブ・・・ジャブ・・・!
うへぇーッ、これはとんだ裏切りの雨だわー。
あっ、熊猫くん。
・・・お、ユキコじゃん。
私と熊猫くんは、中学生になりました。
ほんの最近までは、小柄でぽっちゃりして丸々としていた熊猫くん。
けれど、中学の制服を着た今の熊猫くんは、ずいぶんとたくましい体つきになって、やっぱり男の子だなぁって思えました。
ユキコも傘忘れて、帰れねーの?
うん、そうなんだ。
ま、しばらく待ってれば、じきに勢いも収まるンダろ?
そうだね・・・。
ところで、ユキコ・・・。
なに?熊猫くん。
・・・・・・。
その・・・、ブラウスが雨で濡れて、下着が透け───
え・・・、あ、やだっ!
こっち見ないで!
ご、ごめん・・・。
(あぁ・・・やだなぁ・・・、こんな格好じゃ、雨が止んでもますます帰り辛いよ・・・)
・・・くしゅん!
(おまけに濡れた服のせいで、身体が冷えてきたのかな・・・?寒い・・・)
・・・・・・。(ゴソゴソ)
すると、頭の上にそっと、なにか柔らかいものが降ってきた。
ほら、タオル。
早くそれで身体を拭くンダな。
う、うん。ありがと・・・。(ごしごし)
それと・・・、あとジャージも貸しといてやるから。
いいの?これ、熊猫くんのじゃ・・・?
あ、あれだよ。もしユキコがうっかり風邪でも引いて、それで俺に感染されでもしたら敵わないからなッ。
それ、俺今日使ってねーから、ぜんぜん遠慮しなくていいンダぜ?
気持ちはありがたいんだけどさ・・・、ここで着替えるの・・・?
だ、だいじょうぶ!俺が盾になるから。ぜったい人目には触れさせないンダな!
うん、わかった。
熊猫くんが身体をめいっぱいに広げているその背中の影で、私は手早く濡れた制服を脱ぎ、ジャージに袖を通す。
(うわ、ぶかぶかだぁ・・・。上着1枚だけでスッポリ収まっちゃった・・・)
着替え、終わったよ。
ん、そうか。
再び、横並びになる私達。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。(くんくん)
私はなぜか、熊猫くんから借りたジャージの匂いを嗅いでしまった。
いや、言ったじゃん。今日1回も使ってないって・・・。
でも、熊猫くんの匂いがする。
悪かったな・・・、洗濯しても落ちないくらいに臭くて。
べつに臭いだなんて、一言も・・・。
イヤなら無理して着ること、ないンダからな。
・・・我慢する。
ほら、やっぱ臭いんじゃん!
だからっ、言ってないってば!
そんな不毛な争いをひとしきりし終えた後。
あっ、雨・・・、あがったかな?
・・・いつかの、ハンカチの借りだかんな?
・・・え?ハンカチ?なにそれ?
なんでもねーよ!
そう言って、熊猫くんは、タオルで私の頭をごしごしと乱暴に掻きまわし続けるのでした。
続く