いよいよ明日が成人の日だな。
今年の成人の日は俺の誕生日と同じ日か。まあそんな偶然はどうでもいい。
最も重要なことは、いよいよ財産を法的に自由にできる年齢になるということ!
幼い頃病気で両親を亡くし、その後 子供のいない金持ちの家の養子として引き取られてから、ずっと胸に秘めていた野望がついに動き出す…!
父さんも母さんも貧しさの中、病気になっても一生懸命働いていたために死んだ!
俺は格差を生んだこの社会が憎い!父さんと母さんを殺したこの社会が憎い!
だからこそ財産をのっとる目的で金持ちの家の養子になった! そして誰にも負けない一番の金持ちになってこの社会を支配してやる!
ふ~む。つまり君にとって成人になるということは野望の通過点というわけだね。
!? 誰だ!?
おっと自己暗示中に失礼した。
私は神、天使、悪魔、精霊、魔人、 幽霊、妖怪…まあ君の好きなように 呼んでくれればいい。
つまり超自然的な存在というわけか?
君がそう思うならそれでいい。 それはともかく、君は成人になるということに対して前向きに考えているようだね。
当然だ。成人になることが受け入れられないようなやつらとは違う。
ただ野望に囚われすぎて視野が狭く なっているように思われる。 そこで私が君に素晴らしい体験をさせてあげよう。
カッ!
うう!眩し…
…………ここはどこだ?閉じ込められている?だが正面を体で突き破れそうだ。
バリバリ
ん!?
蜂!?
あ、羽化おめでとうございます王子様!
あれ?今女の子が蜂に見えたような…それに王子様って一体…
…………
そうだ!僕はセイヨウミツバチの雄だった!今こうして蛹から成虫になったんだ!
仕事のことは私たちに任せておけばいいので、王子様はのんびりしていてください。
そして数日後…
今日が何の日か自然とわかる…結婚飛行の日だ!
1頭の新女王蜂候補めがけて雄たちが飛んでいき、最初にたどり着いた1頭だけが交尾できる!
彼女の貞操を奪うのはこの僕だからな。
何を~負けるかァ!
「それでは結婚飛行開始!」
ウリャアアアアアアア!
「だめだった…」
そして月日は流れ、冬…
うらあああぁぁ~! 穀潰しの雄は巣から出て行けェ! もう用済みだァ!
ええ!?そんな突然に手のひら返しなんて…
うう…寒い…腹減った…
だんだん…意識が…薄れ…
…ハッ!?
どうだったかな?この普通では絶対に味わえない素晴らしい体験は。
何が素晴らしい体験だ! こんな性奴隷のような…
…?なんだか急激にやる気が失われていく… 男は女に精子を与えるために成人に なるのか?そう考えると…
私はこういう世界もあると教えただけ。視野が狭くなっていた君は知らなかったことだよ。そこからどう考えるかは君の自由だ。
思う存分悩み、考えたまえ。 それじゃあ私はこれで帰るとするよ。
もう野望なんてどうでもいい… それよりも成人になることが怖い… 女が怖い…結婚なんて…
自分を大人だと思えなかったり、結婚に不安を感じる新成人が増えているのは、こういう超自然的な存在が関係しているのかもしれない。