昔々、武士の世だった頃の話。 いつからか、京の都に「鬼」が現れるようになった。
鬼は突然現れては人を食らい、すぐに姿をくらます。 その神出鬼没性故に、幕府軍も手を 焼いていた。
そんな中、ある夜1人の男が京を訪れた。
そして運悪く鬼と出会ってしまった。
グアアアアアァァ!
…
ズバァッ!
グァバァーーッ!
ドサッ
なんと、男は鬼を倒してしまった。 そこへ偶然通りかかった幕府の軍勢が現れ、男は地方長官から褒美をもらうことになった。
地方長官が男に素性を尋ねたところ、かつて名のある武士の頭に仕えていたが、部下の裏切りにより頭が落ちぶれたことで自身も浪人となったこと、 その当時は剣術に関して右に出る者がいないとまで評されており、現在でも腕は落ちていないこと、 現在は病のため言葉を発することが できないということを筆談によって 答えた。
そして地方長官は男に褒美を与えた後、鬼征伐に協力してくれないかと 頼んだところ、
男は不敵な笑みを浮かべて快く了承したのだった。
次の日から男は京の都の見回りを始め、
また1体征伐。
次の日も、
その次の日も1体征伐したのだった。
まるで鬼のいる場所がわかるかのように次々と鬼を征伐していく男を人々は英雄と称えた。
だがある日…
いつものように鬼と出会い、鬼に致命傷を負わせるまで追い詰めた時、
うう…ま、待て…
…!
男は驚いた。なぜなら今まで鬼が人語を話すことなどなかったからだ。 そして鬼は続けてこう言った。
お前…やっと俺の言葉を理解することができたか… ふふ…もうすぐだな…
…?
俺の持つ金棒を見てみろ…見覚えがあるはずだ…
…!
それは、かつて男と共に武士の頭に 仕えていた戦友が使っていた金棒で あった。
皆俺が討死したと思っていたようだが…それは違う… 俺は「鬼」となって生きていたのだ…
…!?
なあ…俺は人間だった頃殺戮が好きでたまらないって言ってたよなぁ…俺とお前が戦友だったのは「殺戮が好きな者同士」で惹かれ合っていたから… そうだろ?そして年上の俺が先に変異し始めた…言葉を発することができなくなり、ますます殺戮に執着するようになった… そうしていく中自然とわかったんだ…殺戮が好きな者は最終的に「鬼」となってしまうことを…
お前は鬼征伐に関して…人々を救う ためと大義名分を掲げているだろうが…本当は殺戮がしたくて仕方ない からやっているのだろう? そんなお前は今言葉を発することが できなくなり、鬼の言葉を理解する ことができている!ということは鬼となる日は近い!
殺戮が好きな者は人間として生きられず、鬼となるしかないのだァーーーー
ズバァッ!
…
…
その日の夕方、鬼達が住んでいる洞窟を発見したとの報告が入った。 そこで今夜のうちに夜襲を仕掛ける ことが決まり、男を含め幕府軍は深夜に指定場所に集合することとなった。
そして深夜になり指定場所には幕府軍が続々とやって来たが、男は指定時刻を過ぎてもやって来なかった。 堪りかねた幕府軍は男を放って洞窟に向かった。
そして洞窟前に到着した幕府軍。 洞窟はやけに静まり返っていた。 不気味さを感じるほどに…
意を決して幕府軍は洞窟内部へ突入し始めた。
だがそこで見た光景は、意外にも血溜まりに沈む鬼達の死体であった。
一体何が起こったというのか…と疑問を感じていた幕府軍の耳に、洞窟の奥から騒音が聞こえた。
洞窟の奥に進んでいくとだんだんはっきり聞こえてきた。これは誰かが戦っている音だとわかった。
そして洞窟最奥部の広い部分に出る手前で、音は絶えた。
そこで彼らが目にしたのは、1つの死体と1体の鬼だった。
そう――
鬼の首領と思われる死体と――
鬼を斬る刀を持つ新たな鬼の姿 だった。