君たちは他人に知られたく無い物はあるか? どんな事があっても隠しておきたい、知られたくない物だ。
そうだな、物じゃなくていい。 趣味でもいい、とにかく知られたくない物だ。
知られたくないのは何故か? ……恥ずかしい、そう恥ずかしいんだ。
小学生の頃トイレで大便が出来なかっただろう? あれは見つかると変なあだ名を付けられるからな。
……だが、必死で隠していてもいつかはバレる事がある。 それは何故かって?自分の不注意だから?
……それは違う。 それは「もう一人の自分」が無意識の内に表に出てしまっているからだ。
そしてその無意識は隠し通そうとすると、表に出てくる。 病は気からという言葉はあるがまさしくその通りだ。
そして最終的には……この世に「もう一人の自分」が生まれてくる。 ……そう、それこそが……。
ドッペルゲンガーだ。
……。
……という仮説を立ててみたがどうだ?
……全然。 全く意味が分からないよ。
何だと!! ドッペルゲンガーとはもう一人の自分の事を指すんだぞ!!
いやいやー、さすがにもう一人の自分が生まれてくるなんて現実的じゃないって。
それって今書いてる小説? 出来たら見せて見せて!!
ムキーッ!! 馬鹿にするんじゃあない!! 君だって知ってるだろう!!今の事件の事を!!
学校で見かけるもう一人の自分……だっけ? それってただの見間違いじゃないの?
それはどうかな、見かけだけならまだしも声も同じという証言もあるんだ。
あまりにも似てるから気が動転してそう思い込んでるだけじゃないのー? 本当に子どもっぽいんだからー。
いや!!そんな事は無い!! これはまさしくドッペルゲンガーだ!!
またまた、そんな事言って……。
見ていろ!! 僕の言っている事が正しいと君に思い知らせてやる!!
あ!ちょっと真弓ちゃん!? 待ってよー!!
……ドッペルゲンガー……もう一人の自分。
大正解だよ。
全く……真紀の奴、信じてないな。
……お!! これは「こあもん 15周年限定めるへんちっくver」の人形!!
残り1個!! これは運がいい!!
いや~何て幸運なんだ!! この人形はプレミア付いているからなかなか売ってないんだよね!!
(……恥ずかしい……)
……ん?
(……恥ずかしい……この年にもなって……)
……誰?
(普段は大人ぶってるくせに本当はメルヘンチックな子供向けの物が好き……)
っ!!
な、何を言っているんだ!! そんな事はない!!
(この事……真紀に知られたくない……でも明日はこあもんのイベントがある……チケット2枚……真紀を誘って行こう)
っ!? それは駄目!!
(明日誘ってみよう……「私」が好きな物を全部暴露して。きっと真紀なら分かってくれるはず……分かってもらえなくても一人になれば……)
……お、お前は誰だ!? 声だけじゃなくて姿を見せろ!!
(……私?……私は……)
『私』だよ。
…………っ!!
おっと、そこまでだ。
え……君は……。
いつも窓際で本を読んでミステリアスな雰囲気を醸し出している痛い男だ。
いやそれだけじゃ分からないって……。
……。
……消えたか。
……嘘……だろ、あれは本当に……。
ああ、あれは正真正銘……「お前」だ。
すなわち……「ドッペルゲンガー」、学校でお前が話してたやつだ。
そんな……本当だったなんて……。
話だけじゃ到底夢物語にしか過ぎないが、現実で見たら信じるしかないな。 よかったな、お前の仮説が当たってたぞ。
……全然よくない……。
よくないって何がだ?
ぜんっぜんよくないよ!! 僕の言っている事が当たってるんだったらつまり……。
ああ、あれはお前が隠したがっている事を詰め込んでる人形だな。
……どうしよう……本当にドッペルゲンガーが居たなんて……。
ドッペルゲンガーは「隠している意識が強くなると生まれてくる」……。
え?
……あ、あれ? あの眼鏡……どこ行ったんだ?
……。
どうすればいいか分からない……!!
結局……一睡も出来なかった……。
そういえば真紀はまだ来てないみたいだ……。
……。
あ、真紀……。
……行っちゃった……まさか、昨日の……。
心は折れるな。
え!? あ……昨日の眼鏡。
お前も眼鏡じゃねーか。 それよりも心を折るんじゃない、飲み込まれるぞ。
飲み込まれるって?何に?
「同一人物が同時に存在してると片方は『自分』になる事を望む」……よく覚えておけ。
え? ……あ、行っちゃった。
「同一人物が同時に存在していると片方は『自分』になる事を望む」……どういうことなんだ……?