これより魔女法廷を開廷いたします
被告人、魔女見習いコットン。前に出なさい。
・・・・・・
被告人、魔女見習いこっとん。あなたは病床にあった老婆を本来、病気を治癒する使命がありながら、その症状を悪化させ、のみならず老婆を殺害しました。
・・・・・・間違いありませんね?
・・・・・・
・・・・・・もう好きにすればいい
・・・・・・
またぼうっとしてるわね。
・・・・・・なによ
買い出しが、遅いから心配したのさ。
悪い魔法使いに浚われたりしてないかってね。
ニコラ。 あんた以上に悪い魔女(・・・・)なんていないわ。
そりゃそうだ。
それよりビールちゃんと買ってきたのかい?
・・・・・・ふん
おいおいそりゃ発泡酒じゃないかい。 あたしゃビールったのにさあ。
それで十分よ。
ちぇーっ。 晩酌だけがここでの楽しみなのにさあ。
買ってきただけでもありがたく思いなさい。 ここでの生活がどれくらい続くか分からない以上、出費はできるだけさけるべきなんだから。
おいおい、とかなんとか言いながらこいつしっかりロイヤルデラックスプリン(¥490税込)買ってきてんぞ。
うるさい黒豚。 エコバック覗くな。
うっせ、おりゃあ悪魔のベルゼブブ様だって何回いやあわかるんでい。
チャーシューにするぞ。
んだとおコラ上等じゃねえか。やってやんよおお。ぶひいい。
あははは。あんたらは仲がいいねえ。
・・・・・・さてさて夜風も冷たくなってきたし、そろそろ帰ろうかね。
――市街地
その五百メートル、上空。
人型ESP拡張支援兵器、バァファリオン。
バファリオン(インターフェイス)
超低温睡眠モード解除。
緊急覚醒モードに移行します。
パイロット覚醒まであと・・・・・・三秒。
・・・・・・二秒。 ・・・・・・一秒。 ・・・・・・パイロットの脳波確認。覚醒に成功しました。
・・・・・・一秒。
プシューッ。
ふああああ。
おはようございます。ハルシオン。
ぐっどもーにん、バファリオン。
バファリオン、自動操縦モードを解除。指揮権をハルシオンに委譲。
あいこぴー。
お名前言えますか?
・・・・・・
では住所は?
おおまかでもいいんです。例えば町の名前とか最寄りの駅名とか。
・・・・・・うーん
それも駄目ですかね・・・・・・
御家族の名前、いや親戚や、御友人でも構わないんです。覚えてますか?
・・・・・・すいません。
・・・・・・残念です。
先生、やはり僕はそうなんでしょうか。
ええ・・・・・・典型的な記憶喪失ですね。
・・・・・・そうですか。
まああんな事故があったのでは無理もないでしょう。
むしろ擦り怪我ひとつしていないことを幸運に思うべきなのかもしれません。
・・・・・・えっと僕は確か。
大型のダンプカーに正面衝突した・・・・・んですよね?
どうもそれすら記憶になくて。
ええ。警察の方の話では、老婆のバックをひったくったスクーターの若者を追って、赤信号を渡ってしまい
時速70キロのダンプカーにはねられたそうです。
怪我人も出ず、ひったくりは取り押さえられ老婆の元にバックも無事戻りましたが、
残念ながら関係者、目撃者のなかには、あなたのお知り合いはいなかったそうです。
・・・・・・
まあそんなに心配しなくても、
しかし警察の方もすでに動いて、事故現場付近の住人に聞きこみをしてくれているそうですよ。
すぐにあなたの身元も判明するでしょう。
それまでは大事をとって暫くは病室で安静にしていましょう。
記憶のほうも無理にせずとも、時間がたてば自然に思い出してくるでしょう。
わかりました。ありがとうございます先生。
というわけで本日より働かせてもらうことになりました。 習志野権兵衛といいます。
鯨井春子です、宜しくお願いします。
変わったお名前ですね。
仮名なんです。 お話したとおり、記憶喪失なものですから。
なるほど。 ななしのごんべえって事ね。
はい呼び名がないと不便だからってオーナーがつけてくれました。
どうりで古風な名前だと思った。
あとでお婆ちゃんに文句言ってくるから。
いえ折角つけてもらったんで慣れてみます。
お婆ちゃん言ってたよ。習志野さんのことヒーローだって。
ひったくられたバックにこの土地の権利書やら預金通帳やらを入れてたんだってさ。
僕もオーナーには感謝してもしきれないです。記憶喪失なのに雇ってもらったんで。
原因の半分はお婆ちゃんだからね。 気にしないで甘えればいいよ。
これからどうぞ宜しくね。
宜しくお願いします。
ヒーローか・・・・・・。
なんか実感はないけど嬉しいな。
ごめんね。夜のシフトまで入ってもらっちゃって。
どうせやることないですから。
そういえば習志野くん
晩御飯まだでしょ?
ええ
チャーハンなんだけど、ちょっと作りすぎたから助けてくれない?
いいんですか?
うん、じゃあ実家戻って持ってくるね。
ありがとうございます。
・・・・・・。
春子さんいい人だなあ・・・・・・。
何か思い出したらなんでも相談に乗るって言ってくれてたし、
・・・・・・でも「あの事」は喋らない方がいいよな
・・・・・・
・・・・・・よお。
あっ・・・・・・いらっしゃいませーっ。
・・・・・・だせ。
・・・・・・はい?
・・・・・・金・・・・・・出せ。
えっと・・・・・・両替・・・・・・でしょうか。
だんっ!
・・・・・・違う!
レジ・・・・・・の金・・・・・・全部だせ!
(・・・・・・強盗!)
(どうしようこういう場合、防犯ブザー・・・・・・)
(の場所は聞いてなかったな)
・・・・・・んぐっ
んぐっんぐっんぐっんぐっ
ぷはーっ
あたしゃ、この一杯の為にいきてるわあ。
ニコラ姉さん、相変わらず惚れ惚れする飲みっぷりでやんすねえ。
そうだろう、そうだろうともベル坊。
生ビールじゃなくてもこうやって美味しく飲んでこそ酒もうまいってもんよ。
うぃーっひっく。
・・・・・・うるさいばか。
なんだいなんだいコットンちゃんよお。しけた顔してないでこっちきてニコラ様にお酌しな。
そーだそーだ。このふくれっ面のおかちめんたいこーっ。
うぃーっ。
・・・・・・まったく酔っ払いどもがうるさいんだから。
わたしはひとりで静かにプリンが食べたいのに。
おーいどこにいくのさあ。
トイレよっ。
・・・・・・ふう。
まったく、うるさいんだから。声がここまで響いてる。
戻ったらすこし注意しなきゃ・・・・・・。
そうだね。御近所迷惑だものね。
・・・・・・っ!
やあ失敬。驚かせてしまったようだ。
・・・・・・ポップ。
・・・・・・そんな顔しないで欲しいなあ。
仮にも僕らは元パートナーじゃないかあ。
・・・・・・。
そうね。あなたは元パートナー・・・・・・。
そうだろう、そうだろう、そうともさあ。いやだなあもう忘れちゃったのかと思ったよお。
・・・・・・
(勿論、覚えてる)
(わたしは決して忘れたりしない)
(あなたが、わたしを裏切った事)
(わたしを弁護するどころか、事件の関係者であることすらも否認したこと)
(そして、のうのうと保護観察官として平然と戻ってきたこと)
(わたしはこのことを死ぬまで覚えている)
・・・・・・大丈夫よ。
うんうん。それを聞いて安心したよ。
今日はね。そんな元パートナーである君にとっておきのお知らせを持ってきたんだ。
とっておき?
わたしの無実が証明されたのかしら?
それとも魔法少女復帰許可がおりた?
いやいやいや。
まあ聞いてくれよ。
君はあの事件によって、魔女法廷裁判を受けた身だ。
つまり本来であれば死刑囚足り得たわけだけれども、
ある条件と引き換えに、非行魔法少女として扱われている。
その条件というのは、この人間界で行われるある『任務』の遂行。 すなわち、
『この街の六人の悪い魔法使いを退治する事』
・・・・・・ええ、それで?
魔法使いを退治するにしても肝心の魔法が禁止されていちゃあ何もできないよね?
・・・・・・まさか。
そういうこと。
ようやく魔女協会から魔法使用の認可が下りたんだ。
ほら君のシュガーステッキだ。
これを使ってしっかりと任務を果たして欲しい。
・・・・・・それで結論から言うとどうなるの?
同列時空の別世界と考えるのが宜しいでしょう。
つまり?
平行世界といえばわかりますか?
あれだろSFアニメとかでよくある「そっくりの別世界」みたいな?
きゃーっそれなんか此処子ちょうワクワクするううう。
はっ・・・・・・アニメって。餓鬼じゃあるまいし。
・・・・・・そうね。
んだよ。ノリ悪いな。おまえらここまできといてテンション低すぎなんだよ。
そーだそーだー。あげてけー。
そんなんじゃジャックポッターの名がすたるぞ?
われら五人の戦士ーっ
じゃーっく・・・・・・
・・・・・・あのなお前ら。
ふう・・・・・・わたしちょっと冷たいお茶買ってくる・・・・・・。
おれも・・・・・・付き合い切れねえ。
すいません。僕もちょっとトイレに行ってきますので・・・・・・。
あのあのあの・・・・・・みなさん?
なんだよう。やる気あんのかー?
そうだそうだー。こういう時はいつもの作戦会議じゃねーのかよ。
・・・・・・こまりましたねえ。
ちっ・・・・・・しけてんな。自販機の中身まで轟高と同じだぜ。
こういう時くらいドクペとか出せよな。
・・・・・・ああもう。
・・・・・・なんで送れないのよ。
・・・・・・何やってんだ?
・・・・・・みて分かんない?
フユミにメール送ってんの。 今日コンパがあったのに出れないかもしれないから連絡しとかないと・・・・・・。
バックれだと思われちゃう。 ああ、もう!
御剣あんたの端末貸しなさい。
やめとけやめとけ。
さっきの話聞いてたのか?
パラレルワールドなんだよ。パラレル。似ている別世界。
はあ?
この世界にはフユミも、コンパに参加する予定のどこぞの大学生のイケメンどももいねーのよ。
意味分かんない。
要するに『いつもの』トラブルだよ。
・・・・・・ああ。そうなの。
だったら『なんだかんだあって解決する』まで待てばいいわけ?
そーいうこと。
『いつものように』ね。
・・・・・・ふあああ
身体だるーい
これだから低温睡眠はやなんだよなあ。ぶつぶつ。
ハル、食事をとりましょう。
フレイバーは何にしますか?
・・・・・・バニラヨーグルト。
畏まりました。
どうぞ(ジャラジャラ)。
うえー相変わらず不味そう。
ざらざらざら(大量のカプセルを口に流し込む)
ふぁふぁりふぉん、ふぃふふぉーふぁい(バファリオン、水頂戴)。
どうぞ。
んぐっんぐっ・・・・・・ごくり・・・・・・(ボトルをあおる)
・・・・・・ふう。
どうせだったら、もっとまともなものが食べたいな・・・・・・。
何かフレイバーの調整に問題がありましたでしょうか。
別にないよ。
ふむ。
先ほどのカロリーカプセルを検査しましたが、特に問題は感知できませんでした。
パイロットである貴方のコンディションから鑑みても、妥当なカロリーと栄養が提供できているものと判断します。
そういう問題じゃないの。
・・・・・・なるほどメンタリティの問題ですね。
そういうこと。
ところで任務内容確認させて?
端的に言えばVIP六名の存在消去になります。
要は殺せってことか。
我々の平穏な未来の為です。
・・・・・・はーい。
それで作戦ぷらんは?
手段は問わないようです。
持てる手段を最大限に用いて、完遂させろとの事でした。
ふうん。
・・・・・・なら僕のやりたいようにやらせてもらおう
こんな任務はさっさと終えて、帰還したいからね。
バファリオン、
なんでしょうマスター。
待機モード解除。
了解。待機モード解除しました。
索敵。波型。
虱潰しにしよう。
対象に気づかれますけど、よろしいんですか?
やっちゃって。
・・・・・・了解。
走査・・・・・・
開始。
敗者復活戦か・・・・・・。