気がついたら身体が動いていたのだからこの性分はDNAに染み込まれたものなのかもしれない。
つくづく損な人生。
愚かしい宿命を背負った家系である。
けたたましいクラクションと激しい衝撃。
次の瞬間には、仰向けになったまま動けなくなっていた。
起き上がろうにも腕が動かせない。
立とうとしても脚が動かない。
そもそも四肢の感覚がなくなっていた。
動かせない視界にはただただ青い夏の空だけが見えて、
腕のなかではにゃあにゃあと猫の声が五月蝿くて、
薄れる意識のかなあったのは、
もうあのくそったれな借金を返済しなくてもいいという安堵感で
こうして僕はこの夏に死んだ。
……なんだこの空間
というかここどこ?
どうも御愁傷様です
えっ
ここですよここ
携帯電話が落ちてる……
この画面の右下にある傷……見覚えある
おれのか……?
通話中?
なんだろうこのディスプレイの萌えっぽいイラスト
あのーもしもし?
もしもし
この度はご愁傷様です
はい?
面倒な前置きは好きじゃないのでさくっと話進めますけども、あなたはお亡くなりなりました
赤信号を飛びだして、時速七十キロのトラックに轢かれちゃいました
死因は脳挫傷、骨折四十七か所、その他もろもろです
とても残念な事でした
御愁傷様でした
ということでここはあの世です
わたくしはまあ案内係みたいなものです
死神ちゃんとも呼ばれてます
私もなにかと忙しい身なので、電話で失礼させて頂いております
なるほどここはあの世か
死んだっぽいのは覚えてるけどこうなるわけか
こうなるわけです
御愁傷様です
なるほどなるほど
短いような長いような人生だったなあ
いつ死んでもいいやと思っていたけど、こうやって突然死ぬと思い残した事もあるような
どうせ今日死ぬんだったら、貯金全部下ろしてダブルチーズバーガーをLセットで食べておくんだったな
はあーー……
まあいいや案内係さんでしたっけ?
死神ちゃんでございます
これからどうすればいいですか?
それでは……こほん
……
ジャカジャカジャーン!
えっ?
突然ですが、あなたはRE:人生ゲームキャンペーンのモニターに選ばれました
はっ?
もしご参加頂けるようであれば、もれなく豪華特典がもらえます
参加されますか?
はい?
参加されますか?
……えーと
もしかしたら生き返れるかもしれませんよ? (ぼそり)
と言われてもそんなに未練ないしな
生き返ってもジリ貧な生活に戻るだけだし
えっそうなんですか
あちゃーもう参加してもらえるもんだと思って準備しちゃった
まさかこんなに若いのに生き返りたくないとか
どんだけあっちはひどいんだっていう
あのーもしもし?
ああすいませんね。独り言です
欠員出したら神様はさぞかしお怒りになるだろうなあ(ぶつぶつ)
ちなみに豪華景品てなんなんですか?
ああ、それはですね
えーと
あはは、正直そこまで豪華でもなくって
新聞屋さんの勧誘みたいってよく言われるし、
がっかりされると非常に申し訳ないんですが
えっと、洗剤三か月分です
あっ参加します
本当ですか?
ええちょうど、切らしてたんです
かしこまりました
それではご本人様の了解を頂きましたので、
これよりRE:人生双六を開始したいと思います
あの三か月分は?
勿論、ゲームが終わったらお渡しいたします。
お願いします
それではれっつ
すたーと
はい
それではサイコロをお出し下さい
サイコロ?
ええあなたのサイコロです
探してみて下さい。どこかに必ずあるはずです
ポケットに何か入ってる……
いつの間に?
そう。それがあなたのサイコロです
ちょっと拝借
ふむ、あなたのはいたって普通の四面体ですね
人によって面の数や、数字に若干偏りができるのですがこれほどオーソドックスなものは珍しい
お返しします
それでゲームをしてもらいましょう
ゲーム
ええ簡単なボードゲームです
はあ
あなたにやって頂くのは簡単に言えば双六です
お正月などにやった事があるかと思いますが
小学生の頃、友達と二三回あるかな
ではおおまかにはご存じだと思いますが
サイコロを振って出た目の数だけコマを進めて頂き、ゲームクリアを目指します
ちなみに双六盤は人生をモチーフにしております
コマのひとつひとつがひとつの人生を構成する上で重要なイベントになっており
なんていうか、それってようは人生ゲーム?
ストップ
それとはあくまで似たものです
名称似ておりますがこちらは人生双六
お間違いなきよう
(ぱくりじゃないのか?)
まあいいやどうやらサイコロを振るだけの簡単なお仕事なんだね
難しそうじゃないし挑戦してみてもいいかな
それでは早速ですがサイコロを振っていただこうと思います
細かいルールなどの情報についてはおいおい説明していきます
……ところで肝心の双六版が見当たらないような?
このフロア全体が双六盤になっております
そしてフロア内の部屋のひとつひとつがコマになるわけです
なるほどそれは大掛かりなゲームだ
……うん?
つまりここがスタートってことだよね
はい
えーと、ちょっとした疑問があるのだけれども、
なんでしょう?
この部屋なんだけど、
天井をよく見ると、
大きく「あがり」って文字が書いてあるんだけど
「あがり」ってつまりは双六でいうところのゴールって意味だろ?
そうですね
ゴールからスタートするってこと?
間違えじゃなくて?
間違いではありません
というのも、先ほど説明しましたがこの双六は人生がモチーフになっております
人生における「あがり」とはすなわち「死」のこと
つまりあなたは「あがって」ここに到るわけですから
ここから始まるのは当然のことなのです
なるほど……
わかったような、わからないような
質問は以上でしょうか?
あっあと、
この部屋どこ見渡してもドアとかそういったものがないんだけど……?
どうやって移動すればいいのかな?
それについては説明するよりも実際に「移動」したほうが早いでしょう
お手持ちのサイコロを使って頂ければわかると思います
さあ振ってみましょう
振ればいいの?
ええ、どうど
ほい
コロコロコロ……
サイコロの目は三
うわっ
なんだよここ
どこかの街のスクランブル交差点
……ぽい壁紙の部屋?
足元も横断歩道の壁紙になってる
移動したっていうより部屋の見た目が変わっただけなんじゃないのか、これ
もしもし?
もしもし
このようにサイコロを振っていただければ出た目の数だけ「移動」が行われます
なるほど
現実感ないなあ
ここは現実ではなく、あの世です
お間違いのなきよう
そうですか
ヴヴヴ……
なんだ?
新しいコマに到着すると携帯電話の画面に通知が届きます
通知にはどんなイベントが発生したかが表示されます
えーっと『怪しげな宗教勧誘に引っかかって百万円の壷を買わされる』
(なにこのツッコミどころのあるメッセージ)
ご愁傷様です
あなたはどうやらアンラッキーなコマにとまったようです
このようにコマに止まると、イベントが発生し
イベントが起きれば、何かしらのあなた自身に何かしらの変化が起きます
はあ
これって実際に何か起きるの?
何がどう変わったのかは
携帯電話のメニュー画面で確認する事をお勧めします
メニュー画面……。
うわ。なんか見た事ない仕様になってるんだけど何これ。
『ステータス』?『マップ』?『設定』『その他』?
えっと……うん何だこれ元に戻せないぞ
どうなってるんだ?
とりあえずは
とりあえずこの『マップ』を見てみるか
選択すると、双六盤が表示される
灰色に塗りつぶされた小さな正方形が無数にありそれが「マス」のようだった。
矢印マーク(カーソル)で詳細を覗くことができるようなので、そのうちのひとつに当ててみる。
『未経験(詳細不明)』というポップがでてくる。
どういうマスなのか分からないということらしい。おそらく何かしらの条件をクリアしないと判明しない仕様なのだろう。
「マス」は連結しあうこと道を作り、また分岐をつくり、ひとつの地図を構成している。
全体像は、大きな円形がふたつ横並びになって接触している形になっていた。
またそれぞれの円の中にも道が続きルートがあるようだった。
右側の円のなかに青く明滅するマスがひとつだけあり、そこにカーソルを合わせてみると『温弐きせる/幸福』と表示された。
おれの名前……ここが現在地ということか
マスは基本的に灰色になっているが、現在地の周辺にあるマスのうち隣接する四つだけは別の色がついている。
ひとつづつカーソルを当てていくとそれぞれ青色『不幸』、黄色『進学』、赤色『あがり』と出てくる
つまりはサイコロを振って、通過した(ことになっている)マスについては詳細を知ることができるらしい。
なるほど
『ステータス』も見てみよう
うわなんか自分の顔写真付のが出てきたんだけど
収入、職業、資格、学歴……
なんだろこれ
ゲームのステータスっていうよりは完全に履歴書だよこれ
家族構成、父(死別)、母(死別)、
所属、習志野第二高等学校三年……。
このゲームでどう関係してくるのかイマイチわかんないな
資産、総額……
うわやっぱり……リアルなことしか書いてないんだけど
これ見たら生き返るの嫌になってきたなあ
でもあれ? 『資産』の項目の『預金』の欄、
▲九十千十七円?
なんだろうこのとんでもない金額
ゲームでも萎えるな
まあいいや
結局のところ、先に進んでみないと分からないってことだな
……ますか?
……聞こえてますか?
あっはい
以上でガイダンスは終了となります。
何か質問はありますか?
いえ特にはない、です、はい
では暫くは『待機』となりますので、そのままでお待ち下さい。
順番が回ってきましたら再びご連絡いたしますので、
それまで失礼致します……ぷつ
えっ……
切れちゃったよ
話聞いてなかったみたいなんだけど……
まあいいかな