ワシも、もう歳じゃから。
そろそろ引退を考えておるんじゃよ。
な、なんですって!?
寒い時期になると、関節がの~。
お・・・お待ちくださいっ!! 闇魔帝ブラックエゴス様!
あなたのカリスマがなければ、組織の維持ができません。
いや、でも・・・。
アニマル怪人とかも、だいぶ増えてきたじゃろ?
あいつらがおるなら、もうワシはいらんのじゃないかの。
何をおっしゃるんですか!!
私の作ったアニマル怪人軍団を全部集めたって、ブラックエゴス様の戦闘力にはかないませんよ。
ブラックエゴス様、めちゃ強っすー!
戦闘訓練のときだって・・・。
「軽く揉んでやろうかの」とか、その場に立っているだけで・・・。
飛びかかっていった俺らみんな、ノーモーションのカウンター攻撃で全治2週間でしたからね!
そ、そうじゃったかのー。
歳のせいか、どうもよくおぼえておらんのじゃよ。
バトルシーンになると、こう・・・体がフワーッ・・・としてきてのう。
気がつくと、相手が倒れていたりするんじゃ。
とにかく今、ブラックエゴス様に辞められては困ります。
そんでもって川のむこうに、死んだ婆さんの姿が見えたりするんじゃよ。
戦闘中に見えてる幻覚の話は、もういいですから!
まあ、あとは若い者同士でうまくやってもらえんかの。
そ、そんなぁ・・・。
一ヶ月後────。
ふー・・・。
年寄りの一人暮らしはたいへんじゃのう、婆さんや。
ワシらにも、子供がいれば・・・。
今頃は孫に囲まれて、隠居できてたかものしれんのう。
婆さんや・・・。
ワシを残して・・・どうして一人だけ先に逝ってしまったんじゃ・・・。
ありゃ、茶がなくなっておる。
買い物にでも行くかの~。
あー、どっこいしょ。
やれやれ・・・アパートの階段を下るのもひと苦労じゃわい。
ん・・・?
お?
・・・覆面ジジイだぁ!
大家のところの娘さんかの。
そうだよー。 買い物?
ちっと茶を切らしてしまってのう。
買ってきてあげるよー!
いやいや。 ついでに、タバコも買わんといかんしのー。
タスポ貸してくれたら、それも買ってきてあげるよ~。
ダメじゃ、ダメじゃ。
タスポは子供には、渡しちゃいかんのじゃ。
チェッ・・・情報リテラシーに精通したジジイだなあ。
最近の子供はまったく・・・。
世間ずれというか、だいぶスレておるのう・・・。
昔はワシらみたいなのをひと目見ただけで、「キャーッ!」と悲鳴をあげて逃げていったもんじゃがの・・・。
・・・キャーッ!! 宇宙人だわっ!
ん? 宇宙人?
侵略かのー。
ちっと挨拶でもしておくかの。
あー、すみませんのう。
なんだ、おまえは?
ちっとばかり、悪の組織にいたことがあるものでしてのう。
地球を侵略なさる宇宙人さんに、ひとつご挨拶と思いましてな。
我々の作戦行動を妨害するつもりか!
いえいえ。 とんでもない。
こう見えても、以前は組織の代表をやっておりましたものですからのう。
同じ、一般市民の生活を脅かす仲間としてご挨拶を・・・。
邪魔するつもりなら、生かしてはおけんな!
くらえ! 指先ビィィィムゥッ!!
爺さんや~。
こっちにくるのは、まだ早えっぺよ。
あんた。闇魔帝ブラックエゴスなんだから、まだまだやることいっぺえあるでよ。
そうかのー。
────グッシャアアアアアッン!!
ぽぷらぁッ!?
あ。
すんませんのう。 つい、うっかり手が・・・。
あ・・・あわわ。 宇宙人を一撃で・・・。
あ、いや。これは・・・。
危ないところを助けてくれて・・・あ、ありがとうございます!
いや、その・・・えっと。
ふー・・・まいったまいった。
闇魔帝的に、ちっとばかりマズいことしちまったかのう。
まあ。引退してる身じゃから、関係ないかの。
ブラックエゴス様、失礼します!
んぉ? 誰じゃの?
ああ! ご無事でよかった!
なんかあったかのー?
じつはこの近くに、未確認の正義の味方が出没したという情報が・・・。
ほうほう。 今どきめずらしいのう。
ワシの若い時分には、正義の味方がそこらじゅうにおってのう。
あの頃は苦労したわい。
仮面ソルジャーとかゴニン戦隊とかマシンダーとか・・・あとコスモ刑事とか、いろんなヤツらがいたもんじゃ。
毎日のように戦い続きで、怪人たちの残業代と戦闘手当がかさんで組織の会計は火の車に・・・。
お話の途中ですみません。 それで、その・・・そいつが我々と同盟関係にあるネビュラ星人に対して攻撃をしかけて・・・。
そ・・・そうか。
この地域で活動を行っている我々としても、黙ってはいられない状態になったのです。
苦労をかけるのう。
い、いえっ! そんな! もったいないお言葉ですっ!
とにかく、ブラックエゴス様の無事が確認できたので、これで失礼します!
う、うむぅ・・・。
・・・・・・。
どーしよっかのう。
黙っておくことにするかのう。
婆さん・・・ワシ、まだやることあるんかのう・・・?