めっきり冷え込んできたのう。
鉄砲玉として雇われて、はや半年。
大きな抗争もなく、こうして生きながらえて・・・良いことじゃあ。
さて、今日は何の件で呼び出されたのやら・・・。
アニキのことじゃ! 何かしら考えがあるんじゃろうの。
アニキ、お邪魔します。
おう、来たか。
まあ、座れや。
へい。
さっそくですが、今日はいったいどんなご用件ですかい。
そろそろヤットウ仕事の頃合ですかい?
殺気立つなよ。 今日はそういう話じゃねえんだ。
そりゃ失礼。
おめえ、ここに来てどのぐらいになる?
半年ぐらいですかね。
夏の仕事のこと、おぼえているか。
大政組の組長を仕留めて・・・。
違う違う。 オレと二人で海に行ったことだ。
ええ。 仕留めた組長を沈めに・・・。
そうじゃねえよ。 どうもおめえは、殺伐としてていけねえな。
生来、武骨者でして。 申し訳ありません。
秋に、山に行ったことは?
ああ。 六道組の鉄砲玉を返り討ちにして、アニキと二人で山まで埋めに・・・。
二人っきりで紅葉を見て、とか・・・そういうのは、おぼえてないか?
ダンビラ振ったあとは、あんまり赤い物を見ないようにしてまして・・・。
仕方のねえやつだな、おめえは。
そういう性分でして。 お詫びいたします。
それで、今日はどんなご用件ですかい?
その・・・なんだ。
おめえさん、バレンタインって知ってるか?
バレンタイン・・・?
バレンタインデーだよ。
ああ。 女子供の祭りみてえなもんですな。
そ、そう・・・だな。
それで、そのバレンタインがどうしたんですかい?
ほら、決まってるだろ。 バレンタインと言えば、なあ・・・。
ああ、なるほど。
察しがいいな。
アル・カポネが仕組んだっていう、血のバレンタイン・・・というやつでござんすね。
抗争相手を始末する・・・。
鉄砲玉として雇われて、やっとアニキのお役に立てるときが・・・。
違う違うぅーっ!!
その・・・なんだ。
この・・・チョコを黙って受け取ってくれねえか。
えっ・・・。
受け取れよ。
イヤです。
べ、別に・・・意味はねえよ。
いりません。
黙って受け取れって言ってんだろ!
いりませんってば!
いいから受け取れよ!
アニキ・・・それ以上はご勘弁。
義理を欠くことになっちまいます。
ほう・・・そこまで言うかよ。
お母さん、大変だよ~!!
どうしたのいきなり? 大声なんか出して。
そこの橋の下で男の人が二人、血まみれに・・・。
あらあら。 チョコでも食べ過ぎて、鼻血が出ちゃったのかしらね。