昔、職人は夢のある職業だった。自分の技術でどこまでも高みへと上って行く事が出来、その技術で一生食べていく事が出来る。
さらに一流の職人になれば、その人が居ないと困るとまで言ってもらえる職業だった。
しかし今、その職人技は機械の安価大量生産に駆逐され、その生産能力による薄利多売の前には、風前の灯火となっていた。
時は職人氷河期。 今ここに、職人達の新たな挑戦が始まるのだった！！
や、先輩。雛人形って、耳とかありましたっけ？
……あんじゃないのか？
でしたっけ？ 師匠はどうしてましたっけ？
や、覚えてないわー。っというか、職人辛いから世界一周の旅に出るとか、あの人、無責任すぎるわー
そうっすよね
こらあんた達！！
あ、お嬢！！
おじいちゃんが旅行に出てる間は、私がおじいちゃんの代わりです！ 仕事サボるんじゃないの！！
それがお嬢。雛人形に耳ってありましたっけ？
……いいこと？ その質問に、すでに職人が廃れた原因があるのよ！！
跡継ぎがちゃんと育っていないと？
そうじゃなくて。耳があるのか？ 無いのか？ そんな疑問に思われるような耳だったら、あっても無くても同じなのよ！！
！！
もっと、耳をアピールしていきましょう！！ 雛祭りが三月三日で、耳な日だけに！！
っということは、大きくして……
そんな事をして喜ばれるのは、手品師だけよ！！ いい？ 耳に付加価値をつけるの
付加価値ですか？
そう、付加価値。メイドに付加価値をつけるために、猫耳にする。これと同じ発想よ！！
つまりは、耳があることが嬉しいと。とりあえず、猫耳つけてみます
…………
できました
失格！！
やっぱり、うさ耳の方がよかったですかね？ それとも犬……
表情が怖いのよ！！ 日本人形の表情で猫耳とか、もはやホラーよ！！
それじゃあどうしたら？
猫耳が普通である状態にすればいいのよ
つまり、雛をメイドにすると……
そんな世俗に塗れた皇后は嫌よ！！ いい？ ファンタジー世界は女の子に受けがいいわ
……なんと恐ろしい発想でしょう！！ お嬢！！
…………
できやした！
あら可愛いじゃない。猫の雛人形
人の形に拘ってたのがダメだったんですね！ 猫さんやくまさん、うさぎさんの雛祭り。こいつは流行りますぜ！！
一層のこと、体に綿を詰めてモコモコにしたらもっと良いと思うの
それだ！！
そうして、人形職人のおじいさんが帰ってきた時、彼の居場所はそこには無く、ぬいぐるみ職人の職場へと変わっていたとさ。
これで職人氷河期を乗り越えられるわ！！
にゃんにゃん
ぐぬぬ……。こうやって職人技は、消えていくのか……
