キーンコーンカーンコーン
ガヤガヤ・・・
あー、やっと放課後だー。 なあ、ワック寄ってこーぜー。
いや、ストゥバがいい。甘ったるいカプチーノ飲みてぇ気分。
<えー、ストゥバたけぇじゃーん
ガヤガヤ・・・
こん・・・は・・・ダメ・・・よ
ダメ・・・・・・君が・・・だろう?
そ・・・だけど・・・
・・・・・・
?
(部室棟から、声をこらした男女の声が聞こえたように彼には思えた)
(彼にはその声が文芸部の部室から聞こえたように感じられたが、確実ではない。もう少し耳を澄ましてみる)
ほら・・・・・・こんなに・・・・・ 我慢し・・・・・・なよ・・・
ダ、ダメっ!
!!??
(先ほど叫んだ女の子はコンさんだ、と彼はすぐに気が付いた)
(彼がその声を聞き間違えることは絶対にない。彼女の声は彼の胸を際限なく高鳴らせる罪深き声なのである)
(その麗しく美しい声が、緊張を帯びて彼の耳に届く。一体、何が起こっているのか。)
(部室の入り口に近づき聞き耳を立てる彼を──盗み聞きをする彼を──いったい誰が責められるだろう)
・・・・・・。
ススススス・・・ピトッ
(文芸部室の入り口前に移動した彼の耳に、先ほどよりも、より良く声が届く・・・)
そんなことを言って、この口はもうこんなに濡れすぼっているじゃないか。嫌と言いつつも体は素直だねぇ。
!!!?
(彼は思わず立ちあがってしまった。しかし慌てて膝を折る。まだだ。まだ勘付かれてはいけない)
そんな・・・。熊くんがそんなにイジワルだったなんて・・・。
素直じゃないならこうしちゃうぞ~。
あっ・・・ダメっ・・・! や、やめてっ、そんなこと・・・! あっ・・・ずるいっ・・・!
熊くん・・・ダメっ・・・ここ・・・学校、だから・・・あっ・・・バレ、ちゃう!
だったら素直になればいいのに~。抑えきれないんでしょ、肉欲。
抑える必要なんてないさ。もうここまで来ちゃったんだもの。ほら、力を抜いて・・・。
ギリッ・・・。
(彼は自分が唇をかみしめていることに気がつかなかった。舌に鉄の味を感じる。痛みを感じる)
(気がついたのはその後だったのだ。そしてその時にはもう、彼の手は文芸部部室の引き戸にかかっていた。)
(彼の胸の内は怒り狂っていた。学び場である学校でなんてことを、高校生という身分でなんてことを・・・)
(そんな品行方正な建前など彼にはどうでも良かった。想い人を助けたい、熊とか言うやつをぶちのめしたい。
彼は初めて、自分の内にある古来からの本能が燃えあがるのを感じた。彼は引き戸を開け放った・・・)
わひゃあ!
おや?
(彼は叫ぼうとした怒号を飲み込んだ。想像していた事態とかけ離れた光景が、そこにはあった。)
(熊と思われる生徒が、からあげをつまんで中山中さんの顔の前にぶらさげている。)
(中山中さんは口を固く閉ざして抵抗していたが、彼が入ってきたのを見て大きく口を開けた。)
チャンス!
(その隙をついて、熊らしき生徒がからあげを中山中さんの口にねじこむ。)
(中山中さんは慌てて両手で口をふさぐ。)
(しかしそれは口の中に入ったからあげを出さないようにしているようにしか見えなかった。)
ほわぁー! ふぁれはっはー! ふぁれははーん! ほわぁあー! ほぉー!
まあまあ、コンちゃん、落ち着いて。
(中山中さんは食べているからあげを飲み込んでから、口を開いた)
ほぉらぁああー! ばぁれぇたぁああー! ほらぁああー! 校内で買い食いしてるのばれたじゃーん!
いや、コンちゃん、まだ諦める段階じゃないよ、ほら!
(呆然自失している彼のマスクが、熊の手によってはぎとられる。)
(あんぐり開いていた彼の口にからあげが放りこまれる。思わず咀嚼する彼は、舌を這う絶品に目を見開く。)
オー、ジューシー! (彼は叫んでいた。)
とり皮に頼らない肉の旨み! 抵抗なくほぐれていく柔らかさ! 鶏肉に対する愛がないと産み出せない!
(彼の評価に熊は、そうだろう、そうだろう、とでも言いたげに頷いている。)
だよね! おいしいよね!
ほら、これで彼も共犯だよ。先生にバレるわけないよ・・・。
だからね、コンさんや、校内での間食禁止だなんて固いこと言ってないで、素直におなり?
ううううううう・・・・・・。
ほら、よだれよだれ。そんなに濡らせるもんかね、フツー・・・。その我慢の仕方は体に毒だと思うよ。
その毒で病気になったら・・・く、熊くんのせいなんだからね!
はいはい。もう全部、僕のせいでいいから残り食べようよ。君も遠慮せずに、さあ、さあ。
(彼は我に返った。思わず食べてしまったが、彼はそんな要件でこの部室に入ってきたのではなかったのだ。)
(しかしその要件も今や勘違いであることがはっきりした。彼がこの後するべき行動はひどく限られていた。)
・・・・・・。
もう一個、もらっていい?
(彼は共犯者となることを選んだ。)
どーぞ、どーぞ。
はぁぁぁ・・・おいしー・・・専門店のからあげ・・・すごい・・・しあわせー・・・。
(からあげは三つの口と六つの手によって、あっという間になくなった。)
(彼はこの後、満面の笑みで熊という生徒と中山中さんと別れ帰宅する・・・)
(そして自宅の布団の中で、熊が中山中さんを「ちゃん」付け呼んでいたことに気づき苦悩することになるが)
(それは今後の本編とは何の関わりも持たないはず、多分、メイビー)
きーんこーんかーんこーん
おわり
心の綺麗な方、汚い方、両者ともども申し訳ありませんでした。 カラアゲオイシーニクヨクパナイワー