『馬鹿な女の子ほど可愛い?その2』

……。

……。

……。

……。

……。

ねえ。ねえ。

なんだ。

これなんて読むの?

めずらしいな。予習なんて

今日は十月三十日だから、私、三十番だし、国語で当たりそうなの

まあ。頑張れよ

国語の授業中。

今日は芥川龍之介の『羅生門』だ。僕はこのブン投げたようなラストが大好きだ。「下人の行方(ゆくえ)は、誰も知らない。」 非常に痺れるラストだ。

老婆は、大体こんな意味の事を云った。  下人は、太刀を鞘(さや)におさめて、その太刀の柄(つか)を左の手でおさえながら、冷然として、この話を聞いていた。

今は二十番の十文字さんが読んでいる。きれいな発音で、その情景が思い浮かぶようだ。音読はこうでなくてはならない。きっと何回か復習したのだろう。そうでなければこうは読めない。

読み終わり、十文字さんは席についた。授業中でなく、ここが酒場だったら僕は立ち上がってブラボーと叫んだと思う。それくらい素晴らしい音読だった。草葉の陰で芥川さんも喜んでいるはずだ。

えー。次は十月三十日だから十と三十をたして四十だから、そこから十を引くか。三十番は誰だったかな。恋口か。最後を読め

はい、はひ……

ろうばのはなしが……

どうした。恋口

ねえ。雲雲。これって何て読むの

(俺に聞くなよ。それよりもまだ八文字しか読んでねえー)

……おわるだ

ありがとう……すいません。こほん……おわると、しもひとは

(ばかやろう。それはげにんて読むんだよー)

恋口……それはげにんって読むんだ。馬鹿

え、そうなの? げにんは……げにんは? ねえ。雲雲。これって何て読むの?

あざけるだ

(まったくふざけるな)

あざけるようなこえでねんをおした。そうして、いっぽまえへでると、ふいにみぎのてを

(おお! いい調子だ)

みぎのてを……みぎのてを……ねえ?

にきびだ

にきびからはなして、ろうばの……ろうばの

えりがみだ

もう面倒になってきたので恋口にささやいた。

襟上をつかみながら、噛みつくようにこう云った

えりがみをつかみながら、かみつくようにこういった

そのあとはポイントを押さえて伝えた。

おれ

ひはぎ

うらむ

がし

そして、ようやく最後の一節まで辿り着いた。先生も今まで辛抱強く我慢していた。これも全部この最後の歴史的一節を読むためだ。

しもひとのゆくえはだれもしらない。やっと終ったー。雲雲。やっと読みきったよー

(だから……げにんだってのに! 頼むからお前が消えてくれよー)

僕は人知れず、崩れ落ちた。先生もさすがに呆れていたようだ。

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公開日 2012/10/29 21:36 再生回数 18

作者からのコメント

二馬鹿「恋華の行方は誰も知らない」です。

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