――ただいま。
うわぁっ!?
なんだ、おまえかよ。 てっきり『アイツら』かと思ったじゃねえか。
『アイツら』にドアを開ける知能があったら、とっくに僕らも死んでる。 言うまでもないだろ。
おまえ、喧嘩売ってんのか?
はんっ! そんなもの売って何になる?
たしかに僕は君みたいな人種は大嫌いだけどね、人同士で争うくらいなら、『アイツら』を殺すさ。
気に食わねえよ、おまえ。
お互い様だろう。 ふんっ、口論はこの辺にしておこう。 何か新しくわかったことはないかい?
……何もねえよ。 一応、もっかい『アイツ』の部屋は調べたけど、やっぱり手がかりは何も。
まあ、期待はしてなかったけどね。
そういうおまえはどうなんだよ?
聞かない方がいい。
なんだそりゃ。 人に舐めた口聞いといて、てめえの方が役立たずじゃねえか。
くっ、くくくっ。
な、なんだよ、そのきもい笑いは。
そんなに聞きたきゃ教えてやるよ。 たっぷり後悔するがいいさ。
出発する前に説明した通り、僕は学校を目指して歩いた。『アイツら』に見つからないよう、慎重にね。
注意深く辺りを見回し、『アイツら』の興味を惹かないよう隠れて進んでいった。
辺りは酷い有り様だったよ。 僕らがこの家に立て籠もり始めた数時間の間に、事態は更に悪化していた。
『アイツら』は、人を喰うんだ。殺すだけじゃ飽きたらず、惨たらしく喰らい尽くす。
道路には臓物を飛び散らせた人だったモノが転がって、『アイツら』はそれを貪っていた。
ははっ。おかげで安全に学校まで辿り着けたよ。
……。
どうだい? 満足したかい?
……聞かなきゃよかったぜ。
だろうね。
……で、手がかりはあったのかよ? このわけのわからねえ状況を解明するもんがあるはずだって言ってたろ?
あれば最初に言ってるさ。 わかったのは、『アイツら』が僕らの想像した以上におぞましい生き物だってことだけさ。
頭がおかしくなりそうだぜ。 それとも、もうとっくになっちまってるのかもな。
何にしろ、もう終わりだろうね。
終わり? そりゃどういう意味だ?
誰も助けになんか来ないってことさ。
おい、ふざけんじゃねえぞ。
ふざける? 冗談でこんな事言えると思うかい?
『アイツら』はな、今、世界中の至る所に際限なく現れてるんだぜ。僕らを助けに来てくれる人なんて、もうどこにもいないのさ。
な……んだと?
……でも、ここが、この場所が手がかりのはずなんだ。『アイツ』が、『アイツ』こそが、鍵のはずなんだ。
あ……ああ……!?
どうした?
ま……窓に! 窓に!
ん……?
な……なんで窓が開いて……!? うわっ、うわぁあああああ……!?
窓から入り込んだその生き物は、二人の少年に襲いかかり、その巨大な口をもって肉を食い千切り、咀嚼した。
少年らの痛ましい悲鳴は徐々に力を失い、やがて途絶えた。
そして窓から新たなそれが次々に入り込み、少年らの死体に群がり、肉という肉が喰らい尽くされた後。
射し込む昼の太陽の光の中、口の周りを血に濡らし、満足げに微笑んだその顔は……。
うにゃ~。
むぎゅ~。
ぱぱう~?
みっけろめ~!
謎の奇声を上げるそれらの生き物の遥か上空、宇宙空間を隔てた月の上。
作戦は成功だにゃ!
我々の遺伝子と原住民の遺伝子を組み合わせた生物兵器は効果抜群だにゃ!
にゃむにゃむ! これであの青い星もじきに我々のものになるにゃ!
にゃむにゃむ! 素体の雌はどうするにゃ?
今連れて来させるにゃ! 奴隷ベアー!
べ、べあ~!
は、放してよー!
元気な素体にゃ。 これならまだまだ実験に使えるにゃ。
生物としてのポテンシャルがどの程度あるのか確かめるためにも、耐久実験をするのもいいかもにゃ。
そうだにゃ。肉体限界は数値化できても、精神限界は難しいにゃ。どれだけ耐えられるのか試すのにゃ。
奴隷ベアー! 素体をラボの実験室に連れてくにゃ!
べあ~!
い~や~! 放して~!
こうして地球は侵略され、地上から人類は駆逐された。
そして、最後の人類だった少女も数十年後、過酷な実験の末に廃棄され、息を引き取った。
今はもう、 かつて地球を支配していた人という種族を思い出す者は、誰もいない。





