常に、人間とは探し物をする生き物だ。
何かを見つけたくて焦り、何か大切なものを見失う。
そして、その見失った焦りから、その焦りにまた焦る。
それが人なのだ。彼女とて、例外ではない。
彼女は黄金の海原を行く船を降り、一人、誰もいない港で待つ。
探すのも、焦るのも、疲れた彼女はただ待った。
そう、彼女が待つことの焦りと、待つことの疲れを知るまで、彼女はその港でただ待った。
いつしか、彼女は待つことを止め、黄金の海原を歩み始めた。
また、焦りから逃げるように・・・。
いまいちだ。
そう言い、文芸部部部長は私に(制作時間1時間の)作品を返してきました。
んまぁ、導入部分としては52点。ギリギリ赤点ではないので、今日の所はそれで許す。
超上から目線。
むしろ、俯瞰視線です。
期待しているよ、一年生。我が文芸部の文集の一篇を担う物を頼むよ?
さて、困りました。
どうやら、私、丹下 咲夜(たんげ さくや)はなかなかめんどくさい状況下にあるようです。
というのも、事の発端は数日前。
――数日前
ぶ、文芸部活?
久しぶりに、上京した姉からの電話は、毎度の事ながら厄介ごとでした。
そそ、ウチの可愛い後輩が文才ある人を探しててねー。しかも、並大抵の文才じゃない人。
まず、並大抵じゃない文才をもつ人、とは、もはや人間辞めてるレベルだろう。
サク。アンタ、昔から作文書くの得意でしょ?ほら、県の大会にも出てたじゃん!
作文と文芸の違いが分からぬ、悲しき姉よ・・・。
いや、まぁ、そんなのあったけど・・・。
だから、私の為、その後輩の為、文芸部に入らなくてもいいから、協力してあげて!!
えー
今度帰ったら何でもしてあげるから!
ほぉ、なんでも?
おうおう、服でも食事でもな!
だが断る。
鬼!鬼!
嫌よ、めんどくさい。
んー・・・・。じゃ、一つ約束してやる。
約束?
そう、約束よ・・・。
とまぁ、姉に上手く手駒にとられ、私はここにいるわけだ。
では、咲夜くん!この続きは一週間後にキッチリ!頼むよ!
キッチリ!強調するあたり、一日でも遅れたらこの人はきっと、クラスまで来るでしょう。
クソめんどくさいタイプです。はっきり言って、超苦手です。
はい、了解です。部長さん。
うむ、君は先輩、君の姉上からの推薦だ。期待をしているよ!
昔の偉い人は言いました。
期待は裏切られるために存在している、と。
ちなみに、嘘です。
おっ!
うわっ!変態。
それはナチュラルに傷つく。
うっさい、黙ってください。
相変わらず手厳しいな。でも、そんな所もお前っぽいよな。
そうですかー。
では、私は帰りますね。
おいおい、久しぶりに会った幼馴染に厳しくない?
とても残念ですが、このチャラ男()は私の一つ上の幼馴染です。
常に女の子をとっかえひっかえ、校内に付き合った事はない子は居ないという、まさしく、チャラ男。
キング・オブ・チャラ男。私の嫌いなタイプです。
今日も私は平常運行なので、厳しくはないです。
まぁまぁ、少し話し相手になれって。
ウザい。めんどい。
しかし、無視するとさらにうざいので、手短に撤退しましょうかね。
三行で、お願いします。
最近の噂で、女の子が夜中散歩中、どこかにさらわれ、朝に帰ってくる。
4行じゃないですか。この野郎。
ただの援交か、朝帰りじゃないのでは?
まぁー、そうゆう噂もあるけど
一説じゃ、ハメルーンの笛じゃないか、って
ハメルーンの笛・・・?
たしか、街の為に善を尽くした男が、街に裏切られた腹いせに、子供を笛で誘ってどっかに連れて行く話よね。
なんでも、朝に帰って来た子に話を聞くと、不思議な音色に誘われて、外にでたら、
いつのまにか朝なんだって。
は?
だーかーらー、気づいたら朝になってんだって。
夜中、音が聞こえて
うん
それにつられて、外に出る
うん
そしたら、朝?
そうそう
ダメだこりゃ。
あ、先輩、お疲れさまでした。さようなら
おい、その人を憐れむ目をやめろ・・。
とにかく、そんな噂話興味ないんで。さようなら
はいはい、さようなら。さようなら。
ま、お前も気をつけろよ。お前は女の子なんだからな。
それに、噂でも火の無い所に煙は立たない、っていうしな。
う、さすが、チャラ男。意外な攻め方しますね・・。
では、さようなら!
おー、またなー。
1/2 完