“キミP!SS劇場。「第一話、相談!」”

連日、残業が続く中で今日もやっとの思いで一仕事を終えた俺は、朝から携帯に送られてきた数あるメールのうちの一通、「:お願いがあります」の送り主に会うために自宅付近にあるファミレスに着いた。

ファミレスの自動ドアが開き俺はメールの送り主の姿を探しながらも通路を歩く。 すると、相手が俺を先に見つけたのかサッと椅子から立ち上がり、手を振って合図を送ってくると、俺もそれに気づき手を振って応えた。

「ごめんごめん、ちょっと仕事で立て込んじゃってさ、待った?」

「いえいえ、全然大丈夫ですよ。 こちらこそ急に呼び出しちゃって申し訳ありません」

6月のある日曜日、カカカ文庫で一サラリーマンとして働いていた俺こと、新子和希(あたらしかずき)は姉の一人娘である神月奈々美(こうづきななみ)からのメールで呼び出され、俺の家付近にあるファミレス、カストで待ち合わせることになった。

「それで?俺にいったいなんの用なんだい?」

「えっとですね、これを見てもらいたいんです」

そう言って奈々美はバックの中から一冊のバインダーを出すと俺に差し出した。

「これは……小説?」

「はい、そのぉ……実はあたし、こうやって本とか書くの大好きなんです。 これは中学の頃からずっと書き留めてたものなんですよ」

その言葉を聞いて俺は彼女がなにを言いたいのかがわかった気がした。

「なるほど、要するに奈々美ちゃんはこの一冊にまとめた物語を読んでもらいたいわけだね?」

「そうなんですよ! あたし、将来はこういった仕事に就きたくて、これはあたしの夢なんです!」

パァっと顔色が明るくなり、興奮気味になる彼女。 俺は読む分には問題はなかったが、厳しい現実も教えてあげないといけないと言う使命感にもおそわれた。

「んん、そうだね。 とりえず読んでみるよ、少し待ってね」

「はい! ありがとうございます!」

羨望の眼差しで見つめてくる彼女、俺はそのあまりにも純粋な視線に耐えつつもジッと彼女の書いたストーリーに目を通した。

「どっ……どうですか?」

正直なところ、まがりなりにもストーリーは存在していたが文体がめちゃくちゃでなにを伝えたいのかがわからなかった…… 問題点は山ほどあり、俺としてもどこから手を付けていいのかがわからず、言葉を慎重に選ばないと彼女を傷つけかねなかった。

「んー……ちょっと言いにくいけれど、これは一から勉強しなおした方がいいんじゃないかな?」

「そうです……よね、やっぱりいくら書いても素人は素人ですもんね」

浮かれたり、沈んだりとコロコロと表情の変わる彼女がなんとも可愛らしく、つい頭を撫でてしまっていた。

「アドバイスはいろいろしてあげれるけれど、まずはこれだけは言っておくよ。 奈々美ちゃんはまだ高校生なんだ、世の中不景気だけどさ、やっぱり本を書くって言うだけでは美味しいご飯や洋服を買ったりはできないんだよ。 だからこれから先さ、これだけの職業じゃなくて、同時進行で別のお仕事も探した方がいいかも知れないね」

「は、はい! それはもちろん、考えています! あたし自身もそんなにあまい世界じゃないって言うのだけは理解してますから!」

「そうか、そこまで考えているんだったら大丈夫かな。 俺としてはきちんとした大学行っていろいろ勉強したうえで書いていくのがいいと思うんだが、そのへんはどう考えてるんだ?」

「それはダメです!」

語気を荒らげる彼女。 俺はなにか深い理由でもあるんだろうと察した、今まで彼女とは数え切れないほど話してきたがまだまだ知らないことのほうが多い、しかし俺としてはあまり立ち入ってはいけない気がしたのでそこは口出ししないようにした。

「なにかワケありっぽいね、そこはまぁ……人それぞれだし無理には訊かないけど、ともかく奈々美ちゃんの気持ちはわかったから、それじゃあ――」

俺はカバンからシステム手帳を取り出すとそれを開く、するとページにはびっしりと文字が並んでいたその中から自分の時間の空いている日を探した。

「そうだね、奈々美ちゃんとしては次はいつごろ会えるかな?」

「んー、そうですね。 あたしは部活やってないのでいつでも会えますよ」

「なるほど、それじゃあ来週の土曜日にしようか。 ちょうど、君に見せたいものがあるんだ」

「……見せたいもの?」

「そう、勉強になると思うしね。 どうだい? 来てみるかい?」

「はい! ぜひとも行きたいです! 来週の土曜日ですね? 絶対に空けておきます!」

俺はそう彼女に次に会う約束をとりつけると自らも忘れないように手帳に書き込みチェックをした。

「それじゃあ、またメールするよ。 もし、都合が悪くなったりしたら教えてくれればいいからね」

「はい! ありがとうございます! いろいろお話聞いてくれてありがとうございました」

「いやいや、俺の方こそ久しぶりに会えて嬉しかったよ、それじゃあ俺はこのへんで」

そう言って席を立つと再度、彼女の頭を撫でてやりファミレスを後にした――

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Posted at 2012/10/31 09:44 Viewed 20 times

From Author

ある日、突然姪からのメールが入った俺、新子和希(あたらしかずき)は近くのファミレスで彼女と会う約束をする。しかし、そこで彼女から「ラノベ作家になりたい」と相談をされるもその無知っぷりにあ然となる俺だったが熱心な彼女に根負けし、協力することになる。彼女の書くラノベとはいったいどんなものになるのか――

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