もう晩ご飯いいの?
うん、食欲なくて。それに、ちょっとやることあるから
そう言って私は居間を出た。声が掠れてないか、震えてないか、ちゃんと困った笑顔を浮かべられたか自信が無い。
うん……知ってる。知ってた。知ってるつもりだった
それでも辛い。
描かなきゃ。とりあえず、描きあげないと
私には得意なものが殆ど無い。好きで描いている絵だって、美大にいける実力は無いし、今描いてるのも美術部で文化祭に飾るから。何かのコンクールを目指してるわけでもない。
こんな絵、きっと彼には見てもらえない
呟くと悲しくなる。知ってる。見てもらえない。
彼は何でも出来た。
優しくて、運動が得意で、頭が良くて明るくて。私とは正反対。
だから、運動会でクラスのお荷物だった私に優しくしてくれただけ。大丈夫?って手を貸してくれただけ。
息を切らしながら見上げたその笑顔が、太陽と重なって眩しくみえた。大きな大輪の花の様に素敵だと思った。
えっと、花びらの形は……
資料の写真を見る。何故か滲んでみえた。
好き……です。あの、付き合って、欲しいなって……急に、ごめんなさいですけど……その……
ごめん。付き合ってる子がいるんだ
知ってる。
でも、言いたかった。だから私は言った。
辛い、苦しい。でも、この絵は描きあげたい。
大した私ではないけれど、彼がくれた気持ちを形にしたいと思って描き始めた絵だから。この絵だけは描きあげたい。
スポーツが得意な彼の横では笑っていられなかった、私だけど。この花に込めた気持ちは嘘じゃないから。だから、描きあげなきゃいけない。
そんな私を邪魔する涙が、今は辛かった。