獣人……人であって人では無い新人類……今の世の中ではそう言われている。
見た目は普通の人間と変わらないが一つだけ大きな違いがある……それは獣の耳と尻尾がある事。
まだ数は少なく希少種と科学者の間では言われているそうだが……。
ゴロウー、お腹空いたよー、
今作ってるから待ってろ、ラビ。
……っておいコラ!!つまみ食いするんじゃねぇ!!
ゴロウ?私はトイレに行きたいわ。
勝手に行けよ!!何で俺に言うんだよ!!
御主人様!お掃除終わりました!!
ご苦労様……ておい、何だこの毛は。
はぅあ!!それは私の体毛……。
分かった分かった!俺がやっとくから居間に行っててくれ!!
……とまぁ、我が家には3人の獣人が住んでいる。姿を見るのも稀だと言われているのにねぇ……。
おーい、飯が出来たぞー。
わーい!ご飯だご飯だー!!
飛び跳ねるな!!家の中では禁止!!
そうですわよラビ、私達はお世話になっている立場……主人の言う事は聞かないといけませんわよ。
……おいちょっと待て、何だこの砂は?
ギクッ!!
御主人様ー、お皿をお持ちしましたー。
それ皿じゃなくて鍋だ!
……と、こんな風に騒がしい毎日を送っている。
ゴロウー!早く食べよう!!
そう慌てるな、箸は持ってきたか?
こいつは『ラビ』、ウサギの獣人だ。食いしん坊で飯の催促をよくする奴だ。見て分かる通りちょっと馬鹿だな。
ゴロウ、私の食事処を作りなさい。
テーブルで食え!床で食事しようとするなよ?
こいつは『フェリネ』、猫の獣人だ。気品溢れる様に見えるがやってる事が抜けてるおっちょこちょいな奴だ。腹黒いかもしれない……。
御主人様ー、用意が終わりました!
いやそれ菜箸だからな?それじゃなくて普通の箸を持ってくるんだ。
こいつは『シノ』、狐の獣人だ。この中では一番まとも……かもしれない。働き者だがどこか抜けてるので危なっかしい……。
お箸持って来たよ!さあ早くー!
今日も美しい食事処が出来ましたわ……。
御主人様!今度こそ用意が終わりました!
……よしOK! んじゃ……いただきます!
「いただきまーす!!」
……こいつらと出会ってもう2ヶ月経つのか……。
そう、あれは2ヶ月前の夜の事だ。
学校帰りだった俺は近くのコンビニに寄ろうとした。
そこに居たのが……獣人……そう、こいつらだった。
お姉ちゃーん……お腹空いたよぉ……。
大丈夫、安心しなさい。ここはコンビニ、食べ物ならたくさんあるわ。
じゃあここでお腹いっぱい食べる事が出来るんだね!やったー!!
いえ、ちょっと待って下さい!無料で食べられる訳ではないですよ!『お金』を支払わないといけないんです!!
……え?それは本当なの?
はい!この前の人間の方が「お金がねぇよ~、これじゃ飯も食えねぇ」って言ってました!!
えぇ……私『お金』なんて持ってないよぅ……。
(……あれってもしかして獣人か?確かめったに人前に出ないって聞いたが……なんでこんな所に?)
……っ!!二人とも!! 人間が居ます!!
まぁ!!早く隠れないと!!
あぅぅ……お腹空いて動けないよぉ……。
あぁラビ!しっかりして!!早くしないとあの施設に連れてかれてしまうわよ!!
(え?何?もしかして俺……何か悪い目で見られてる?)
(どうも聞いた話だと……腹を空かせてるみたいだが……聞いてみるしかないか)
……人間がこっちに来ます!!
何をそんなに慌てているの?人間如きこの私に触れられると思って?
いや待て!まるで俺が誘拐犯みたいじゃないか!!
だってそうでしょう?獣人を捕まえた方には莫大なお金がもらえると……。
そこまでして金なんてもらいたくねーよ、それにしてもこんな所で何やってるんだ?
うあーん!お腹空いたよー!!
ラ、ラビさん!!そんなに騒ぐと気付かれちゃいますって!!
ああ何て不運……これも宿命なのかしら……動けない所を狙われて捕獲されて……。
何でそんな芝居口調何だ? それはともかく飯食いたいなら俺ん家来るか?
行くー!!
ま、待って下さい!もしかしたら罠かもしれませんよ!!
貴方如きが私達を連れて行く……?命知らずねぇ……。
(この猫ウゼェ!!というか何でそんな演技がかかった様な口調なんだ!?)
腹を空かせてる人を見捨てられる訳ねーだろ、別に無理にって訳じゃないが……。
あ、貴方……今私たちの事を人って……!
そんなに驚く事じゃないだろ?獣人って獣と人間のハーフみたいなもんだ……って言われてるし。
……っ……初めて……人って呼んでもらえました……。
お、おいおい……。
二人とも!騙されてはなりません!!この人間は家に連れこみえっちな事を……。
しねぇよ!!つーか何でそんな結論になったんだ!?
なら貴方の家に行ってあげてもよろしくてよ?
(心変わり早!!そしてウゼェ!!)
もうげんかーい!!どこでもいいから連れてってよー!!
分かった!分かったから揺するな!!
……で、家に連れて行って飯を食わせたら懐いたらしくて……。
(……現在に至る)
ゴロウ!おかわり頂戴!!
相変わらず食うの早いなおい!! もっとゆっくり食べろよ!!
ゴロウ、味噌汁が飲みたいわ。
飲めよ!! 別に聞かなくていいから!!
御主人様ー、お塩をお持ちしましたー。
おいシノ違う!!それ塩じゃなくて砂糖だ!!
え!?……ぴゃー!甘すぎですうううぅぅぅぅ!!
え?そんなに甘いの? 私にもちょうだい!!
止めろ!骨が熔けてなくなるぞ!!
ゴロウ、熱くて飲めませんわ。 ふーふーしてちょうだい。
自分でやれ!!
(面倒見るのは構わないが……前に比べて賑やかになったなぁ……)
獣人3人を引き取る事になった俺は否応も無く近所に知れ渡る事になる。
それゆえ当然、敵も多い。
実はこの時も絶え間なくインターホンを鳴らされ……外からはカメラのフラッシュ、マイクを通した罵声が飛んできている。
獣人の異様な姿に恐怖する者は少なくない、そしてその恐怖感は獣人への怒りとなりそれに与する者を巻き込んで壮絶な攻撃を仕掛けてくる。
……あんな奴らに引き渡す訳にはいかない、俺が……あいつらを守ってやらないと……。