よお！
ああ、どうも。搬入はもう終わりましたか？
いんや、後輩に任せてきた！
サボリですか。
そういうなよ、同じ釜の飯を食った間柄じゃねぇか。
顔が近いです、顔が。
ふぅ～・・・。
・・・・ふぅぅ～。
市原。お前教師になって何年？
ん～。やっと３年。
もう３年か、あっという間だなぁ。
生徒の前で挨拶した全校集会が、つい昨日の事のように思い出せますよ。
しっかし、人生ってのは何があるかわかんないね、市原。
まさかあの不良が、大学行って教員免許とって、母校で吹奏楽教えてるんだから。
ダチにもよく言われます。体罰してないか、とか、女子高生に手出してないか、とか。
そうだろうな！ 俺も、お前がすいぶ（吹奏楽部の略）の顧問になったって聞いたときはぶったまげたぜ！
教師になったって聞いたときは？
二日ばかし風邪をこじらせた。
酷い人だ。
それはそうと、部の方はどうだ！ 順調か！？
んまぁ、ぼちぼちってところですかね。
お前が現役ん時と違って、大分レベル上がってたろ！
多少はね。でも、まだまだ下手くそですよ。
３年にもなって未だに♭忘れるバカもいるし。
お前だってそうだったじゃねぇか！
あれ、そうでしたっけ？
忘れもしねぇぜ。最後の定期演奏会のラストソロで盛大に♭外してドヤ顔で挨拶したお前の
うわぁあああああ！！！ やめろおぉぉぉ！！！
で、実際どうよ。顧問になって。
そうですね。
一番の衝撃は、自分が現役のときに言われた言葉の意味についてですね。
当時は腑に落ちない点や、単純にムカついたりしてて納得できませんでしたが、
同じ立場になったときに、初めてあの言葉の意味を理解できました。
おかしいですよね。あれだけウザイ死ねってなんども思った顧問と、同じこと生徒に言ってるんですよ。
秋山の爺な。間違うたびに殴られて、何度殺してやろうと思ったことか。
多分、今のあいつらも俺のことを、当時の俺みたいにウザイとか疎ましく思ってるでしょうね。
顧問という立場として、言わなきゃいけないのは正直辛いです。
でも、あいつらが少しでも人間的に成長してくれるのなら、俺はいくらでも嫌われてやる覚悟はできてます。
感謝してくれるのは、大人になってからで十分ですから。
なんでぇ、普通に先生やってんじゃん？ 市原よぉ。
大きなお世話ですよ････ん？
失礼します。
先生、打楽器搬入終わりました。
ほい、ご苦労さん。
そういや小宮、お前表彰式ステージ上がるんだろ？ 早く裏行った方がいいじゃないか？
そうでした・・・・。はぁ・・・・。
なんだよ、緊張してるのか？
そうじゃないと言えば、嘘になります。
大丈夫だって、別にまたあそこで演奏するわけじゃないんだ。
校名呼ばれて、成績発表されて、表彰状を受け取る、ただそれだけだろう？
それはそうですけど・・・・。
ほら、さっさと言って来い！
そうやってすぐ頭ポンポンするのやめてください！ いい加減セクハラで訴えますよ！
おお、怖い怖い。
・・・・それじゃ、失礼します。
西浦さんも。
おう、頑張ってこいよ、小宮部長！
････はい！
疎まれてるねぇ・・・・。
ええ、疎まれてますよ。
で、お前は表彰式見ないの？
結果だけなら、ここからでもスピーカーで聞けますし。
でもよ、生で見たいと思わねぇの？
秋山先生の教えです。『表彰式は生徒と一緒に見るな』っていう。
あの爺、表彰式に限ってみないと思ったらそういうことか。
でもなんでまた？
さぁ？ こればっかりは。
律儀に教えを守っててもわかんないのか。
でも、そろそろ分かりそうな気がします。
ビ――――――！！！！
さて、はじまりますね。
先輩はどうします。あいつらと一緒に見ますか？ 表彰式。
あー・・・・。
？
いや、俺もお前と一緒にここで聞くだけにするわ。
そうですか。
俺もじじ・・・・秋山先生の教えを、少しは感じてみたい。
では、一緒に聞きますか。
この一年間の集大成の結果を。
････プログラム№１８ 里須高等学校吹奏楽部････
～終劇～
