もしね。全ての生き物が一生に打つ心臓の鼓動が全部同じなら、及川さんは未来を生きてるんだよ
何の話だか私には分からなかった。
心臓の鼓動によって時間が決まってて、ねずみも象も体感する時間は同じって言う話があるんだよ
それで? 私は人より早く老けると?
失礼な話だ。
違うよ、そうじゃなくて
それは素敵な事なのかもなって。速く走るために一生懸命になって、一歩でも速く踏み出せば、その一歩分だけ早く未来が見えるのかなって
でも、それって体感時間の話でしょ?
うん。だから、全然未来には行けないんだけど、それでも僕は走るのとか苦手だから。その光景を見る事が出来ないから
そんな会話を思い出した。
On your mark! Set! ――GO!――
その掛け声で私は走り始める。
一歩でも速く、一歩でも先へ。 届かない先へ、届くかも知れない未来へ。
や、無理だって。未来、見えないって
息を切らせて、そう呟く。
今日も楽しそうだね
え? あぁ、博士君
その呼び方、やめて欲しいな
いいじゃない。今、帰るの?
うん。それじゃあ、及川さん。部活、頑張ってね
うん。あ、そうだ
うん?
未来、見えないよ。速く走っても、未来なんて見えない
あ~、あはは……
彼は困ったように頭をかいた。でも、
未来は見えないけど、ちゃんとね現在を走ってるって気はするの。誰かより先には行けないけど、誰かの隣には居れるかも知れない
それだけでね、楽しいって嬉しいって思えるよ
そうなんだ
そうなんだよ。だから博士君もさ、今度走ってみたら? 良い運動になるよ
彼の困った笑顔が、夕日で赤く染まった。照れてるのかなって、勝手に思っておこう。
さぁ、今日もまだまだ走らないと。だって、私には走るしかないんだから。
だって、時間は止まらないんだから。