帰り道、駅前を通りかかると、とんでもない光景を目撃した。
笹に吊るされたカラフルな色の短冊を一枚一枚毟っていく女。
な、なにしてんだよ!
僕は止めざるを得なかった。何故なら、この女は・・・。
皆さん、すみません!お騒がせしてしまって・・・。
ちょっと、止めないでよね!野川!
この女は、僕の妹だからだ。
お前何してんだよ!こんなことして、何になるって言うんだ!
うっさいなぁ・・・野川には関係ないでしょ。
妹だが、こいつは僕の事を「野川」と名字で呼んでくる。
僕は、お前の・・・アマノの兄貴だぞ。関係ないもんか。
偉そうにしないでよ?だいたい、あんたを兄貴と認めた覚えはないわよ?
僕らは異母兄妹だ。
ある日父親が急に「お前の妹だ」と家に連れてきたのが、このアマノだった。
そして、年もそう変わらない僕らは、1つ屋根の下で暮らすことになったのだが・・・。
お前自分が今なにやってたのか分かってんのか?それは、皆の気持ちを踏みにじる行為だ。
私の願いの1つも叶えないで、何が七夕よ!
こうゆう感じで、いつも自分勝手に暴れ回って、他人に迷惑を掛ける、最低な妹だ。
いつの年もそうだった。私の願いは1つも叶ったことがない。
お父さんはいつまで経っても帰ってこないし、お母さんの病気は一向に良くならないし・・・。
そして気付いたの。きっと願い事が沢山あるから、私のが埋もれて気付かれなかったんだって。
だから皆の短冊を捨てて、この笹には私の願いだけが吊るされてれば、間違いなく気付いてくれるって!
お前、本気でそんなこと思ってんのかよ?
ちょっとついて来いよ。
どこよ、ここ・・・?もう随分薄暗いっていうのに・・・。
この町で一番、空に近い場所だ。
ここで短冊を吊るせば、お前の願いは間違いなくあの星に届くだろう。
アマノ。あそこの笹にお前の短冊を吊るしてこい。
な、なに言ってんの?あんな断崖絶壁のところなんかに行ける訳ないでしょ!?
何かを叶えるには、それ相応のリスクが伴うものだ。
だからって、女の子にあんな危険なところに行かせるだなんて、ヒドイ男ねアンタ!
そうよ・・・だったら、あんたが代わりに行ってきなさいよ?私の兄貴なんでしょ?
可愛い妹のためだもん?きっとやってくれるよね、お兄ちゃん?
あれ~。もしかしてビビってんの?男のくせに?だらしない兄貴~。
お前の願いは・・・簡単に誰かに押しつけられるような安い願いなんだな?
そんな安い願いなら、その辺の雑草にでも結びつけておくんだな。
ちなみに、俺の短冊は既にあの笹に結びつけてある。
なにせ、お前の願いと違って、決して安い願いではないからな?
ほら、どうした。選べよアマノ。願いを叶えたいんじゃないのか?
や、やだよ・・・怖いもん。だって、落ちたら死んじゃうよ?
死なせるもんか。その時は全力で俺がアマノを護ってやる。
お兄・・・ちゃん・・・。
だからこれだけは知っててくれ。世界はお前が思ってるほど、絶望に溢れているわけじゃない。
さぁ、一緒に行こう。 お前の願いを叶えるために。
・・・うん。
星は遠い。ものすごく遠い。
きっと、宇宙から見れば、私なんてちっぽけな存在。
けれど、今は私のことを見てくれる人がいる。
私が今日手に入れた、ゴツゴツしてて大きくて、温かみのある星。
この星を、手離したくない。