ここが新しくできた図書館かぁ~。
このパンフレットによると、かつて礼拝堂だったのを改築し直したみたいなのだ。
なるほど、なんか心の底から落ち着けるっていうか、妙な安心感があるのはそのおかげなのかな?
そうかもなのだ。 とりあえず、色々と散策して見ようなのだ。
よぅし! まだ見ぬ本に出会いに行こう、楓ちゃん!
こ、こら! 図書館では騒がず走らずなのだ渚!
それにしても、色んな本があるね。 図書館だから当然だけど。
そういえば渚は、普段どんな本を読んでいるのだ?
え?
翌々考えてみれば、渚の部屋には本が少ないように思ったのだ。渚はあまり本は読まないのか?
う~ん、言われてみれば最近はそんなに読んでないかな?
昔はラノベとか良く読んでたんだけど、最近は読まなくなっちゃったかな?
渚もラノベを読んでいたのか。その割には部屋にはそれらしいものは見れなかったような気がするのだ?
まぁ・・・引篭もってたときに、現実逃避のために読んでただけだからね。
う・・・。
一応、まとめて取っておいてはあるんだけどね・・・ただ読むとあの頃の記憶が蘇っちゃうから・・・。
す、すまないのだ渚。 私としたことが、変なことを・・・。
ううん、楓ちゃんが気にすることじゃないよ。
それに、今のあたしがいるのも楓ちゃんのおかげなんだし、楓ちゃんを攻めたりなんかしないよ?
渚・・・。
本と言えば、楓ちゃんは普段どんなの読んでるの?
私か? 私は実はあまり本は読まないのだ。
えええ!? なんか意外だよ!? 特に理由もないけれどなんか意外!
そこまで驚かれると、なんだかこっちもくるものがあるのだ・・・。
そうか・・・渚の中の私は読書家なのか・・・夢を壊してしまって悪かったのだ、渚。
そ、そんなことないよ楓ちゃん! どんな楓ちゃんだって、あたしにとっては最高の楓ちゃんだよ!
なぎさ・・・。
でもそっか。楓ちゃん、あたしと違って働いてるもんね。忙しいからしょうがないよね。
(あふん・・・) 何を言うのだ、渚だって働いているのだ。
え? ああ、そういえば言ってなかったっけ?
な、渚・・・。もしかして。
辞めちゃった、チャットレディ。
・・・そうか。
とはいっても、あたしの意思じゃないよ!? お父さんがね、なんか週刊誌で書かれてるの鵜呑みにして、
こんな危ない仕事を、まだ二十歳ちょっとの大事な娘にやらせるわけにいかん! 即刻辞めろ!
・・・って、夜中に散々喚き散らすから仕方なくね・・・。
そ、そうなのか・・・。それはちょっと残念なのだ。
(内心、私ももっと普通の仕事を選んで欲しかっただけに、複雑なのだ・・・。)
※あくまで登場人物たちの主観です。決して、業務形態および内容を批判しているわけではないので、ご理解ください。
そんなわけで、ただいま絶賛内職探し中なの。
内職に拘るよりも、外に出てアルバイトとか探した方が全然儲かると思うのだが・・・。
う~ん、やっぱりそうだよね。 でも、前に一回だけやったコンビニで散々だったし・・・。
流石に、その・・・引篭もり明けでコンビニはちょっとハードだったのだ。
今思えば、茨の道を歩ませるためと思って言わなかったが、茨どころか鉄線の道を歩ませてしまったのだ。
でも、今があるのもあの茨鉄線のおかげかなって、少しは思うよ?
何より、接客業の大変さが身に沁みるどころか刻み込まれたからね。あれ以来レジで待たされてもどこか心に余裕ができるようになったよ。
いいたいけんをさせてもらったよ。
渚!? なぜ笑いながらそんな涙を流すのだ!? 渚!? しっかりするのだ、渚!
ごめんね、楓ちゃん。 また迷惑かけちゃって・・・。
気にすることはないのだ。 むしろ私の方こそ、渚に辛い記憶を蘇らさせて申し訳ないのだ。
そんなことないよ、楓ちゃんは悪くない。楓ちゃんに心配かけさせちゃうあたしの方が悪いんだよ。
私の方こそ、そんなことないのだ! むしろ渚が私を頼ってくれて、とても嬉しいのだ!
楓ちゃん・・・。
・・・これからも、いっぱい頼っちゃうけど、いい?
・・・もちろんなのだ! 約束したのだ、渚のためなら、私はなんだって頑張るのだ!
渚の幸せが、私の幸せなのだ!
・・・かえでちゃん!!!
なぎさ!
・・・ウォッホン。
あ、向こうの方に面白そうな本があるのだ、行こうなのだ渚。騒がず、走らず、私語は慎み、ゆっくりと。
そ、そうだね楓ちゃん! 騒がず、走らず、私語は慎み、ゆっくりとね。
(ニッコリ
リンゴーン リンゴーン・・・
おっと、もうこんな時間なのだ。
静かな空間の中での読書というのも、中々乙なものがあるのだ。
・・・とはいえ、ずっと目線を落としっぱなしだったから、首が疲れたのだ。
読書と言うものは、中々に体力を消費するものなのだな、渚・・・。
むにゃむにゃ・・・。
・・・・寝てるのだ。
まったく、図書館で寝るだなんて、一体どこの学生さんなのだ、渚は。
むにゃむにゃ・・・ えへへ、かえでちゃ~ん・・・。
・・・まったく、この幸せ者め。
えへへ・・・ずびびび。
こらこら、寝ながら涎を垂らすなんて、はしたない・・・。
・・・・・・。
むにゃむにゃ・・・。
・・・渚、顔の下に何を挟んでいるのだ? ちょっと気になるので確認させて欲しいのだ?
んぐぐ・・・。
・・・・なるほどなのだ。
なぎさ、
とっとと起きるのだこのスカポンタン!
はひゃいふぁい!?
あああ、ごめんね渚ちゃん、ちょっと寝ちゃってたよ!
寝ているだけならまだ結構なのだ! これを見るのだ!
え、なにこれ・・・って、うわぁ。 酷いねこれ、涎の後がくっきり残ってる。
大方、読書中に居眠りしてこうなっちゃったんだろうね、まったくどこの誰だろうね、図書館の大事な本にこんな涎を垂らして汚しちゃうような、居眠り学生さんは・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
あたしかーっ!?
ピポンピポン大正解なのだ!
どどどどうしよう楓ちゃん! このままだと確実に弁償させられちゃうよね!?
渚よ、こればかりは私も擁護できないのだ。諦めてこの本を買い取るかするしかないのだ。
ううぅ~、そんなぁ・・・。
申し訳ありません。そろそろ閉館時間なので・・・。
あ、あの、すいません。
はい?
あーあ、思わぬ出費だよ。
自業自得なのだ。むしろ定価よりも安値で買い取らせてくれた館長さんに感謝しなければならないのだ。
あんなことがあったのに、笑顔でまたのご利用お願いしますって言ってくれたし、本当に頭が下がっちゃうよ。
今日はあの図書館に足を向けて眠れないね。
今度、日を改めてちゃんと謝罪しに行くべきなのだ。
や、やっぱりそうだよね・・・。
安心するのだ、その時は私も付き添ってあげるのだ。
かえでちゃ~ん!
こ、こら! 急に抱きつくななのだ! ビックリするのだ!
ありがとう、楓ちゃん! あたし、楓ちゃんのこと、ずっと大好きだよ!
そんなこと、もう耳にタコができるほど聞いたのだ~!
じゃあ、もっともっと、いっぱいタコができるぐらいに聞かせてあげるよ!
望むところなのだ! 私も渚の耳にタコをたくさんつくって、たこ焼きにして食べてやるのだ!
うわ~、楓ちゃんってそういう趣味あったんだ、意外だなぁ~。
ぬふふふ、渚の中の私はまだまだ真の私ではないのだ。じっくりと私に染め直してやるから覚悟するのだ~。
う、うわー! 食べられる~! 逃げろー!
待つのだ渚! 夜の街は騒がず、走らず、私語は慎み、ゆっくりとなのだ~!
~終劇~