突然だが、この俺はライトノベル作家である
はぁ?
いや、だからライトノベル作家、略してラノベ家だよポニテ娘くん
海辺まで来て言う台詞がそれかこのメガネ。腐った脳みそを捨てるゴミ箱なら用意してあるぞ、ホレ
うわぁ、用意がいいね
フ、そんな物持ちがいいポニテに恐怖を覚えたが、あいにくとここは海ではないぞ
海じゃない、だと?
そうだ。 ここは‥‥‥グンマだ。
な‥‥‥なんてことを!なんてことを言うんだお前は!!
敵だね。今確実に特定地域に敵を作ったね、イジルくん。
‥‥‥その名前は、呼ぶな。俺はもう富山での過去は捨てたんだから‥‥‥
‥‥‥‥‥‥
(なんだかカッコつけているが‥‥‥)
(確か家から追い出されそうになったけど、ギリギリ踏みとどまれそうだったのに自分から「業界が俺を待ってるぜ!」とか言って飛び出しただけだよね)
‥‥‥ダラってあだ名は本物だよね‥‥‥
それで、こんなところにまで何をしにきたんです?
いい質問です。まぁ簡単に言えば、俺はラノベ家なわけですよ。
(ラノベ家、ではなくラノベ作家、のほうが一般的だと教えたほうがいいのでしょうかね、これ)
‥‥‥とにかく、そういうことなのだとはわかりましたが、それで何を?
それがつい最近、シリーズ打ち切りの憂き目にあってしまいましてね。
あ、インファイト・ストライカーズって打ち切りになったんだ。
※ちなみに略称はアルファベットにした際の頭文字二つを並べたものである。
あれって五巻以上は続いてたのに、なんでまた!?
‥‥‥担当とイラストレーターが‥‥‥
お前さぁ、もう少しキャラの幅増やせないの?
すんません、そろそろまともな描写か何か無いとキャラクターの武装が描けないッス‥‥‥
‥‥‥などと自分の都合で俺に文句を当り散らしてきたので上に連絡したら、なぜかこんなことに‥‥‥!
(‥‥‥‥‥‥)
(これはひどいね)
なにそれひどいね!自分の都合を押し付けてくるなんて社会人失格だよ!!
(あ、この子一番自分の都合押し付けてる人に同情してる‥‥‥)
そうだろう、そうだろう!あいつらは本当に見る目がないのだよな!!
どーせその人たち、自分の名前を売ってお金儲けして、いつかサイン会を開くんだーなんて小さなことしか考えてない人たちだよ!切って正解だね!!
う‥‥‥うむ!その通りだな!!
(イジルくん、いつだったかに「俺のサイン会を開いて、やってきた読者たちに俺の名前を刻み込んでやるわ!」とか言ってたのに‥‥‥)
(自己否定になろうとも、今は感覚を共有できる仲間を取ることを優先したか‥‥‥)
えぇと‥‥‥ まぁ、それはとにかく置いておくとして‥‥‥
結局、どういう目的なんですか?
とにかく、こんなことになったからには俺は新作を書かなければいけないわけだ。
新作はどういうものなのか決まってるの?
あぁ――サバゲーだよ。
(‥‥‥サバゲーってなんだろう。あ、でも語感だけで考えてみると‥‥‥)
(も、もしかして鯖をゲーッて吐いちゃうってことだったりするの!? そんなの書いてどうするのさイジルくん!?)
ほぉう、サバゲーか。少し気を使う点は多いだろうが、上手くやれば面白いものにできそうだな。
そうだろう。もっと褒めてもいいぞポニテ。
そのまま死んでいいぞ、イジル。ちゃんとゴミ箱に入れた後で土に埋めてやるからな。
ふん、照れ隠しをするなど、まことに愛いやつよの、ポニテ。
照れとらんわっ!
‥‥‥まったく。 それで、お前肝心のサバゲー経験はあるのか?さすがにあれの臨場感は味わったことがないと書けないと思うが。
もちろんあるとも。つい先週、学内野戦研究会の連中のものに混ぜてもらってな。
ほう。普段はサボリ屋のくせに、たまには真面目に取材を‥‥‥
――って、ちょっと待て、先週のガクヤ研のやったサバゲーって‥‥‥
? どうかしましたか?
あ、いえ、その学内野戦研究会っていうところに姉がいるんですが‥‥‥先週の会員たちによるサバゲーの感想で――
ふはははははははは!人間どもよ、貴様らが生んだ銃器とこのクマーの体があれば貴様らなど木っ端ミジンコだ!!
――とか叫んでるクマのきぐるみを着たやつがなんども蘇ったりしてめちゃくちゃだったとか言っていまして。
流石は我がもう一つの姿、すでにそうして語られてようとは。
これは俺本来の名前ももうすぐ広がりそうだな。
やっぱりお前かっ!
そう怒るなポニテよ。こうして俺もサバゲーを理解することができたのだ。
どうせなら、次もあの場に光臨してやってもよかったんだが、もういいと言われてしまってな。次は別のところに行くとお前の姉にも伝えておいてくれ。
(手にあるのが実銃だったらよかったのに、とまで言われていたが‥‥‥黙っておいてやるか)
で、結局こんなところまで来てなにするの?
サバゲーやるなら、海よりも森林のほうが参考になるだろうと思うけど。
え、海に近いほうがいいんじゃないの? 直接釣れるよ?
‥‥‥え?
つ、釣り‥‥‥?
‥‥‥時折お前の言うことはどうにも分からん。
だ、だって鯖ゲーでしょ!?ここなら釣れ‥‥‥!
‥‥‥あー。なるほどな。
とりあえず、その鯖じゃないぞ。サバイバルゲームの略でサバゲーだからな。
あ、鯖威張る!?そういうことね!
さ、更に誤解が‥‥‥!
彼女、英語の成績は大丈夫なのでしょうか。心配になりますね。
甘いんだよポニテ。その程度の説明で天然は敗れん。
じゃ、お前がやってくれ、イジル。私は疲れた。
だからイジルじゃないと‥‥‥まぁいいか
おい、天然!
ん? 呼んだ?
て、天然で返事を‥‥‥!
あ、ち、違うよ!あたしは天然じゃないよ!!
否定はむなしいぞ。 とにかく、お前の認識には一つ間違いがある。
え? 鯖威張るゲームの略でしょ? 要するに鯖を釣った数で競うんじゃないの?
それならば、ここじゃやる意味がないんだよ。いや、出来ないというべきかな。
えぇ!? だってここは海‥‥‥あ!
そうだ。 まず‥‥‥グンマに鯖はいなぁぁぁぁぁい!!
いないものをどうやって釣る!? ましてや釣らなければいけないのならこんな辺鄙な湖に来る必要などどこにもないだろう!
(また敵増やしてる‥‥‥)
とにかく! 天然、お前の考えは間違いだらけだということを覚えておけ!
う、うん‥‥‥わかった‥‥‥
よし、それでは一人の考えを治したところで本題だ。
やっとか。
ええ。 ここまでなんとも無駄な時間が多かったですが、ようやくそれも終わりそうですね。
俺はな。 今度の自作では一巻から多少媚びたシーンを書こうと思うのだ。
ああ。たしかにインストは媚びたシーンって少なかったし、そういえばあまり印象的じゃない薄いイベントばかりだったね。
ツインテ、人の傷は抉るな。ファンレターにどれだけその言葉が書かれていたと思っている。
あはは、ごめん、その何通かは多分私だよ。
貴様‥‥‥まぁ今はいい。終わった作品の話を蒸し返す気はない。
とにかくだ。俺は一巻から媚びたシーンの代表として、海辺での水着シーンを書こうと思っていたのだが‥‥‥すこし行き詰まってしまってな。
どうするかと思っていたのだが、そこで妙案が浮かんだのだ。
あ、嫌な予感。
俺がこれまで媚びたシーンを書けなかったのは、実際にその光景を見ることができなかったからだ。空気を感じられなかったからだ。
だから今日、ここで俺はひとつ知識を増やそうかと思ってな。水着の女たちが戯れる光景を、な。
ま、まさか‥‥‥!!
そうだ! さぁ諸君、今より水着に着替えたまえ! お前たちはこの場で楽しい時間を過ごし、俺はその光景を糧とする!!
言っておくが、今回の旅費は俺の自腹だ!周りで仲のいい女子を全員連れてくるだけの稼ぎをインストで手にできていてよかったぞ!
まさか、前もってこういう場所に連れてくると言っておいたのに水着を持ってきてないなどということはないだろうな!?
‥‥‥イジル、大変言いづらいんだが‥‥‥
あたしたち、水着というか水着グラが無くて‥‥‥
えっ
だからその提案は無理といいますか‥‥‥
なんだと‥‥‥! くっ、それならもう下着状態でもかまわ――
墓穴はゴミ箱の中がご所望か、イジル?それともこの砂の下か?
さ、流石にそれは無理だよぅ、イジルくん!
いくらなんでも、それは駄目だということぐらいは分かりますよね?
デリカシー無さすぎ。 それにどっちにしたって、イジルくんが木陰かどこかで下半身イジルなんて状態になってるに決まってる。
ツインテェ!俺がそのようなマネをすると思うかぁ!
‥‥‥とにかく、それじゃあ今日はどうしろっていうんだか。一応宿も取ったというのに。
ま、まさかそれだけのために泊まりの旅行にするなんて思ってなかったよ‥‥‥
ま、お前の目的はつぶれたわけだな。とりあえず普通に旅行でもしようじゃないか。
馬鹿をいうな!ここはグンマーだぞ!? いったいどこを楽しめと――
あ、もしもしー?
ん?なんだこの地蔵は?
グンマ特有の地蔵だよ。それはとにかくお兄さん、ちょっと言いすぎだね。
とりあえず、あっちでお話、しようか?
な、き、貴様ら!離せぇ! 俺は国弦イジルだ――
‥‥‥‥‥‥ ‥‥‥‥‥ ‥‥‥‥ ‥‥‥
行っちゃった‥‥‥
オ、オチがどうしようもないぞ、これ!?どうするんだ!?
ど、どうしようと言っても‥‥‥
大丈夫。 後はわたしに任せて。
じゃ、じゃあ、全部任せちゃいますよ? いいですか?
ばっちおっけー。
その後、イジルくんの書いた新作「未開地サバゲーフィールド」は、なかなか売れたように見えた。
しかし、結局ファンレターで色々言われてるところは変わっていないらしい。アンチスレは連日大盛況だ。ぷっくく。
ちなみに、ファンレターで一番否定的に書かれていたのはわたしが送ったものらしい。これで精進してくれるといいのだけど。
いつか‥‥‥いつか絶対サイン会を開いてやるぅ‥‥‥
無理だって。