親父の転勤に伴って俺は地方に引っ越すことになった。 気の合う友人との別れや、住み慣れた街との決別は辛かった。 だが、一方で俺はワクワクしていた。 これから行く街はどんなところだろう。どんな出会いが待ってるんだろう。 そんなことを考えて、遠足を待ちわびる小学生のように眠れない日もあった。 主人公「ああ、楽しみだな!」 柄にもなく俺は浮かれていた。そう、あの時までは。
先生「えー今日からこのクラスの一員になる者を紹介する。おい、入ってきなさい」 先生の言葉に従って教室にはいると、クラスの視線が俺に集まった。これは、転校生の宿命だ。どうやっても最初は好奇の目線に晒されてしまう。 けれどもこの状況は何度もシミュレーションした。俺は落ち着いて教卓の前に立つ。
主人公「東京から越してきた主人公です。勝手が分からずご迷惑をおかけすることがあるとは思いますが、よろしくお願いします」 最初の自己紹介は普通に。受けをとろうとして滑ったら、その後の人間関係がスムーズに行かなくなるからな。 ぺこりと頭を下げ、拍手が起きるのを待つ。だが。
ざわざわ
予想にはんして教室はざわついた。 あれ、俺おかしいこと言ったか?
?「君、ちょっといいか?」
眼鏡をかけた委員長チックの男が立ち上がる。
委員長「どこの機関の回し者だ?」
主人公「はぁ? 機関?」 真面目な顔で何を聞いてくるんだ。 首を傾げると、委員長は眼鏡をキラリと光らせた。
委員長「一般人にうまく擬態しているようだが、僕にはお見通しだ。この目は特殊でね」
主人公「言っている意味が分からないんだけど」
委員長「隠さなくたっていい。ここにいる奴らはみんな“そう”なのだから。正式な所属が言えないのなら君の能力だけでもいい」
そうってなんだよ。あとコードネームってなんだよ。いまいち訳がわからん。 俺が混乱の極みに陥っていると、ガタンと勢いよく別の男が立ち上がった。
?「委員長、んなまどろっこしいことしてんじゃねえよ」
委員長「滝沢。何をするつもりだ。まさか……」
滝沢「能力者の挨拶ってやつだ」
委員長「滝沢! 君の地獄の業火“ヘルズ・フレイム”はシャレにならん! 転校生が死ぬぞ!?」
滝沢「いいんだよ、手加減するから。それに死んだら所詮はその程度だってことだろうよ!」
……なんだこの寸劇は。右手を俺にかざす滝沢と、静止の声を荒げる委員長。もしかして転校生歓迎の劇とか? 笑えばいいのか? コレ。
主人公「ははっ」
滝沢「なに笑ってやがる!」
えっ、違うの。
滝沢「オーケー。そんなに殺されたいならお望み通りにしてやる。出力全開!」
カッと目を見開く滝沢。……しかし何も起きない。いや、起きたら怖いか。
滝沢「っ!?」 滝沢「能力が発動しねえ……クソったれ!」
滝沢は右手を振ってみたりと色々するが、何も変わらない。滝沢の顔から血の気が失せていく。
滝沢「な、なんだよ。お前……何したんだよ」
主人公「別になにも……」
滝沢「嘘付け! ならなんで俺の能力が発動しねえんだ! まさか、てめえが能力泥棒か!?」
いや涙目になられても困る。
委員長「落ち着け、滝沢ぁ!」
滝沢「う、うわぁぁ!」
うずくまる滝沢と、それを宥める委員長。クラスの皆さんが俺を化け物を見る目で見てくる。 ……ああ、理解した。つまりここは。
主人公「重度の中二病患者を収容している高校か」 または邪気眼専門学校。ははっ、笑っちまうぜ。 ……嘘だろ、オイィィ! こんなところで学生生活を過ごさねえと行けないのか!? そんなの無理だって、誰かヘルプぅぅ! こうして、俺の奇妙な学生生活が幕を上げた。 プロローグ・終了。
おまけ!
頭が痛いと保健室に行った転校生を見送り、僕は怯える滝沢を見る。滝沢だけではない。このクラス全員がおびえた様子を見せている。
滝沢「あぁ……俺の能力が」
僕たち能力者は能力が封じられれば一般人と変わらない。なまじ能力を頼りに生きてきた僕たちだ。 その支えが無くなれば恐慌状態に陥っても仕方がない。 全く厄介なことになったものだ。
委員長「おい、滝沢。今能力は撃てるか?」
滝沢「……どうせ撃てねえよ。アイツ、“能力泥棒”だろ? 俺の能力奪われちまった」
滝沢は生気の無い瞳で僕を見上げた。 最近噂になっている能力泥棒。ソイツは能力者の能力を奪い、自分の物にするらしい。 ソイツの被害者は増えていく一方だ。 能力を奪われた能力者はただの一般人に成り下がり、ショックで精神を壊してしまう。
だが、僕にはあの転校生が能力泥棒だとはどうしても思えなかった。
委員長「まだ彼の能力が分かった訳じゃない。だからやってみろ」
滝沢「んなこと言ったって」
委員長「いつもの威勢の良さはどこにいった」
滝沢「チッ、分かったよ」
滝沢はヨロヨロと立ち上がると右手を天井に翳す。
滝沢「ヘルズ・フレイム」 ゴウッ、と滝沢の右手から大きな火炎の球が飛び出す。
滝沢「ど、どういうことだ。委員長!」
「……ふむ。彼は能力泥棒ではないということだろう」
滝沢「でも、あの時は能力を使えなかったんだぜ!? それなのにどうして!」
滝沢の疑問ももっともだ。しかし、それは僕にも分からない。 あの転校生、一体何者なんだか。 僕は小さくため息をついた。






