キーンコーンカーンコーン
チャイムの音が辺りに響き渡り、驚いた俺たちは慌てて繋いだ手を離した 彼女の顔は赤く、俺の顔もこうなっているだろう
え、えっと、予鈴が鳴りましたね 刈谷さんは異端者の教室に行くんですよね
あー、いや 先に校長室寄ってかないと駄目でさ ところで校長室って何処?
校長室は1階の東側奥ですね 校舎入ってずっと右に進めば左手にありますよ
サンキュ 添富士さんも遅れないように急げよ?またな
・・・はい、また!
添富士さんに手を振って別れ、急いで校長室へと向かう
校舎内にお決まりのように貼られている紙を横目で見ながら走っていたが、その内容に思わず立ち止まってしまった
・・・「校舎を壊すべからず」 普通こういうのって「走るべからず」じゃないのか?
その後も長い廊下には様々な張り紙がしており、そこには普通の学校では考えられない内容ばかりであった
「戦闘はグラウンドで」 「先生を攻撃しないこと」 「両者共に挑発しないこと」
・・・なんつー物騒な学校だよ そりゃさっきのお兄さんも警戒するはずだ
400mほど走ると、校舎の端へと辿り着く 俺はがっくりと肩を落とし、誰に言うでもなく呟いた
なげーよ校舎!ここ来るまでにドア10個しかなかったけど教室の中どうなってんだよ!
更に最後の50mほどはドアが存在しておらず、校長室と思わしき場所は見当たらない
うーん・・・道を間違えたか?でも添富士さんは右って言ってたし 彼女が嘘をつくようには見えないしなぁ
俺は途方にくれていると、左手の壁から渋く、力強い声が響いてきた
おう、聞き覚えの無い声がするんだがもしかして君が刈谷夏樹君かい?
ど、どっから声がしてるんだ?それにあんた誰だよ
はっはっは!まぁ顔を合わせて話し合おうじゃないか その近くに赤いボタンがあるだろう?それを押してくれ
はぁ・・・赤いボタンですが あ、よく見たら壁からボタンが出てる・・・けどこれって
確かに壁には手のひらほどのガラスのカバーに覆われたボタンがあり、上に小さな文字で「校長室」と書かれているが・・・
・・・あの、爆発とかしないですよね?
大丈夫だ 人が犬の○を踏む確立だから
地味に確立高いですよねそれ?! あーでもこれ押さないと先に進めないわけで・・・えぇい行ってやる!
俺は左手でカバーを外し、人差し指で力強く押し込んだ ポチッと言う音と共にボタンから白い煙が噴出し、俺の包み込んだ
げほっ!げほっ!これもしかして爆発のほうですかー?!
俺は片手で口を覆うと、煙を仰いで視界を確保しようとする 少しして煙が治まってくると、そこには・・・
満点の夜空が広がっていた 地面が一切見当たらず、俺は一瞬慌てるも足は地についていることに気付いた
辺りを見渡すと、テーブル、椅子、観葉植物なども同じ高さに鎮座していた
あのすんません、頭がついていってないんですけどどうすりゃいいっすかね?
笑えばいいんじゃない?そのためのボタンとこの場所だし
正面から先程の声が聞こえてきた 大きめの桐で出来た机には、鋭い眼光をした高齢の男性が腕を組んで座っていた
ようこそ、刈谷夏樹君 私がこのアポロ学園の校長をしている・・・
男性の眼光がより鋭いものに変わり、俺は思わず一歩後ずさってしまう しかしすぐに体勢を整え、背中に隠してあるものへと手をかけ、警戒する
(・・・戦うことがあるって聞いたから念のためナイフを持ってきたが・・・あんま能力使いたくないんだよな)
俺は視線を逸らさずに、体をゆっくりと落としていく 何をしてくるか分からないので、どの方向へも飛べるようにしておいた
・・・マリーアントワネットです、よろしくね♪
ピースサインを横にして目元へとやり、ウィンクをする妙齢の男性 あまりにも突拍子もない行動に俺は思わずこけそうになった
なんじゃそら!俺の緊張を返せ!
はっはっは!いやなに、こんな辺鄙な場所に来て緊張してると思ってた ちょっとした冗談さ
豪快に笑う男性 しかしその目はよく見ると笑っておらず、俺への警戒心は解いていないようだった
はぁ・・・まぁ気は抜けましたよ 名前は先程呼ばれたのでご存知だとは思いますが一応 刈谷夏樹と申します
おう、聞いてるよ異端者の坊主 向こうで何をしたのかもしっかり、な
す、と目を細め、笑顔を潜ませる男性 俺は姿勢を正したが、右手は未だにナイフの柄を握り締めていた
・・・とりあえずその握り締めているものから手を離してもらおうか 本島でしたことをここでもやるつもりか
・・・失礼しました 初対面の方に対する態度ではありませんでしたね いえ、親しければいいというわけでもありませんが
俺は柄を離し、両手の平を顔の横へと持ち上げて敵意が無いことをアピールする そこでやっと男性の目は笑ったのだった
すまないな、この学園にいると命がいくつあっても足らんのだ 特に転校生は珍しいし、資料をもらっただけなんで何するか分からんからな
そう、確かにこの学園に転入生は珍しい 本来魔力というものは生まれた時に検査され、陽性だった場合はこの学園への収容が決まる
6歳になると自動的にこの学園へと送られ、高等部を卒業するまでここで生活するのが常識である
ならなぜ俺は本島で生活していたのかというと、生まれた時に病院側の手違いで検査をされなかったために、異端持ちだと認知されなかったのだ
しかし・・・面白い能力持ってるな この能力があれば異端者はおろか条件さえ揃えば魔導師も太刀打ち出来ないじゃないか
どうだ?学園の支配者にでもなってみないか? そうすりゃ皆大人しくなるから俺も楽になるってもんだ
いや、遠慮しときますよ 出来れば細々と学園生活を送りたいので
それに俺の能力は条件を合わせるのがめんどくさいんですよ それさえクリアすれば強いんですけどね
そうか・・・まぁ冗談と思っておいてくれ その条件ってのは背中に隠しているものも一つなのか?
あ、分かります?と言ってもこれ一つで条件満たすこと出来ないんですよね 満たすことが出来る対象はせいぜい・・・まぁ人とかその辺ですかね
俺は不敵に笑ってみせるが、男性は一切動じることなく座っていた 手元には紙が握り締められており、交互に見やることから俺の資料だと予想できる
ふむ・・・っと自己紹介がまだだったな 私の名前は
もう自己紹介はされましたよマリーアントワネット校長 長いから略してマント校長って呼んでいいですか?
恥ずかしいからあんまりネタを引っ張るんじゃない!一回滑ったネタを何度もしたりパロディネタの解説するのは駄目なんだぞ!
恥ずかしいならしなきゃいいのに・・・いやまぁ緊張は確かにほぐれましたけど
どうどうと馬のように校長をなだめ、先を促すことにした
私の名前は小鳥 大悟(ことり だいご)だ よく大きいのか小さいのかはっきりしろと文句を言われるのが悩みなのだ
いやそんなこと言われても知りませんし・・・
この学園の校長をしておる 異端者だが軽く魔道知識もかじっておるぞ ちなみに趣味はとう・・・生徒たちの観察だ
(今このおっさん盗撮って言いかけたのか?魔導師と異端者まとめあげる学園の校長がこんなおっさんで大丈夫か?)
大丈夫だ、問題ない 先程君達の校門でもやりとりも見させてもらったよ
心の声に突っ込むのやめてもらえませんか?! 後さっきの見てたってマジで盗撮じゃねーか
はっはっは、ローアングルカメラはあんまり無いから気にしないでくれ あぁそうそう、一言だけ告げておこう
す・・・と目を細められ、視線が俺を射抜く 先程の殺意や警戒心とは違う、試すような目だ
・・・彼女、添富士 笑夢君にはあまり関わらないことだ 君には割と期待しているのでな、”落ちこぼれ”になってほしくないのだよ
大悟は鼻で笑い、声は小馬鹿にしたようなものだった 俺は頭に血が上っていくのが分かるが、思考と視線は冷え切っていた
・・・あんた何言ってんのか分かってるのか?自分の学園で生活する生徒だろうが それを”落ちこぼれ”ってレッテル貼って何もしないってか?
事実だろう?彼女は魔法を使って戦うことが出来ず、ただ花を愛でることしか出来ない かといって肉弾戦が出来るわけでもない
それに今朝見た通り、彼女は魔導師たちから蔑まれている そして魔導師である彼女は異端者からも忌み嫌われている
そこにもし君という異端者の異物が紛れ込めばどうなると思う?彼女に対する魔導師からの風当たりはより強いものとなる
更に魔導師と共にいようとする君は異端者たちから蔑まされるだろう それを見て彼女はどう思う?心優しい彼女がそんなことを望んでいると思うかね?
悪いことは言わない、これ以上彼女と関わるのは・・・
言いたいことはそれだけか?おっさん うだうだと綺麗事並べやがって・・・結局は”問題を起こされたくない”ってだけだろうが
俺の怒りは沸点に達した 出会ってたった10分程度の彼女のことだが、あの悲しい涙とその後の笑顔を見てしまったのだ
彼女の側にいてやりたいと、そう強く思ったのだ それを学園側の”都合”で台無しにされるのは納得いかなかった
ほう・・・ならばどうするというのだ?私へと挑み、彼女と辛い日々を送ることを選ぶか 今ここで謝罪し、縁を切ることで平安な日々を送ることにするか
校長の周りに青いオーラが立ち込める 魔力が体から吹き出しているのだろう、校長の本気が伺えた
悪いが俺は青春を謳歌したいんでね もちろん横には可愛い女の子がいるほうがいいに決まってるだろう?
俺はナイフを取り出し、先端を校長のほうへと向けて構える
だからその選択肢は前者を選ばせてもらう 何、痛いのは一瞬だ校長。少し待ってやるから今の間に後任を決めておくがいい
一触即発の状態で対峙し、お互いの隙を探りあう 条件は揃っているので異端を発動することは出来るが、あまり使いたくはなかった
しかし彼女を馬鹿にされることは俺には我慢出来ず、相手が校長であることも忘れて”殺す”ことのみを考えていた
・・・はっはっは!合格だ刈谷君!いやぁ思った以上に熱い子でよかったよ
・・・は?
突然笑い出した校長 辺りを覆っていた緊迫感と、校長の纏っていた魔力は四散してしまった
いや何、ちょっとしたテストさ 彼女をまかせられるかどうかの、な
悪い冗談ですね校長 それで、俺は合格できたようですが何かご褒美はあるんですか?
あぁ、君に彼女の側にいる権利をやろう もし他の先生側から注意などがあれば私が直々に出ていこうじゃないか
そいつは重畳、ありがとうござます校長
お互いの緊張感が無くなったと同時に、チャイムが鳴り響いた 授業開始のチャイムだろう
おっと、長々とすまんかったな 君の教室は2階の西側、4つ目のドアがある教室だよ
了解です、走っていきますよ
あぁ、大丈夫だ私が送ってやる それぽちっとな
校長が引き出しからスイッチを取り出すと、軽快な音と共に押し込んだ
ちょっと待て!それさっき入り口にあったボタンと一緒・・・! ってぬおおおおおおおおおおおおおお!!!!??
窓の無いはずの校長室に突風が吹き荒れ、俺を包み込むと視界を奪い、浮遊感がした
その突風につれられ、俺はどこかへ飛ばされたのだった
はっはっは!青春してこい!
校長は笑いながら見送っており、夏樹の姿が完全に見えなくなると椅子を動かして座りなおした
刈谷君、君が思っている以上に彼女と他の生徒の溝は深い しかし君には期待しているぞ
この学園の淀んだ偏見に染まっていない君だからこそ、変えられると思うからな
誰に聞かせるでもなく呟くと、机に背を向けて足を組み、深く腰かける その方向には、いくつものモニターが存在していた
おっ、ラッキー!中等部の子のパンチラゲットー!