あら、おかしいわね・・・。
どうかしましたか、佐原先生。
あ、市原先生。ウチのクラスの学級名簿が見当たらないんですけど・・・。
・・・佐原先生。先生のクラスは昨日卒業式したばっかりですよ。
・・・・・・。
・・・・!!!!
3年間毎日ですもんね、そう簡単に抜けませんよね。
あああ・・・す、すいません! お恥ずかしいところをお見せしてしまって・・・!
そうでした・・・ウチのクラスの子たちは、昨日卒業したんでしたね・・・。
生意気な子ばっかりでしたけど、本当にいい子たちばっかりで・・・
先生、ハンカチ。
ううぅ、ぐすっ・・・すいません・・・。
佐原先生は相変わらず、泣き虫ですね。学生の頃とちっとも変わらない。
そ、そういう市原君だって! 学生の頃は、先生に叱られて、泣きながら職員室に謝りに行ってたくせに!
学校では先生と呼んでください、佐原先生。
ううぅ・・・。
やっぱり、泣いちゃうんですね。クラス担任受け持つと。
だって、3年間一緒に過ごしてきたのよ。楽しいことや辛いこと、沢山共有してきて・・・。
そんな子たちと、もう会えないって考えると、どうしてもあたし・・・。
はい、ハンカチ。
でも、泣いていられるのも今だけですよ。これから何十年、何百人もの卒業生を見送ることになるんですから。
市原先生は、まだクラス担任を受け持ったことが無いから、そういうことが言えるのよ!
そうは言いましてもね、僕だって何も3年生に知らない子が居るわけじゃないですし。
顧問の吹奏楽部の3年生だって、3年間一緒に部活してきたんです。クラス担任ほどじゃなくても、感慨深いものはありますよ。
まぁでも、佐原先生のようには泣きませんでしたけどね~。生徒から早く卒業しないとね、先生。
ううぅ・・・。
ガララッ
失礼します。吹奏楽部の小宮です。部室の鍵をお借りに来ました。
お話しの最中失礼します。 先生、鍵ください。
おう、朝から練習か。精が出るな、小宮は。
ちょっ!? え、小宮さん!? どうしてあなたがここに!? しかも制服で!?
さ、佐原先生!?
そんな・・・進学先も決まって、吹奏楽部の部長も勤めて、内心も良かったのに・・・どうして留年なんか・・・
先生、別に私留年したわけでは・・・
え?
来週、吹奏楽部の定期演奏会があるんで、それに向けて練習に来たんです。
で、でも!? あなた3年生でしょう!? 部活はもう引退したんじゃ・・・。
『文化部は運動部と違って大会以外にも活動はある』って言って、先生が引退させてくれませんでした。
・・・なんでわざわざ制服で?
『卒業しても、4月までは本校の生徒だから、制服で来い』って先生が・・・。
・・・・・・。
・・・小宮、鍵な。
ありがとうございます。 失礼します。
失礼しました。
ガララッ
・・・・・・。 『生徒から早く卒業しないとね』・・・でしたっけ、市原先生?
あ、そろそろ1限目の授業が始まりますよ、先輩。
学校では先生と呼んでくださいね、市原先生。
・・・・・・。
翌週の吹奏楽部の定期演奏会。プログラムの最後で校歌を歌う3年生部員の横で、大粒の涙を流す市原先生が確認されたのは、言うまでもない。