目覚めるのか……
僕の名前は衣笠(きぬがさ)悠里(ゆうり)。ごく普通の男子高校生だ。
しかし、今僕は追われている。
待ってください。
なら、その物騒な刃物をなんとかしてくれ。
彼女は手に刀を持っている。
あんた、何者なんだ?
私は、クリス。あなたをお守りするために来ました。
意味が分からない。いや、お守りに来た? 何から?
何から守りに来たんだ?
それは……
よお……
誰ですか?
離れてください。敵です。
オイオイ。俺はただ、そのトーチをもらいにきただけだぜ。
トーチ?
今さらだが、ここはどこだ?
分からない。暗闇が支配する空間だ。
いったん結界を解きます。
リリース!
あ……
景色が元に戻る。
なあ……トーチ。どうせ後少しの人生なんだ。早めに死んどけよ。
謎の男が刃物を取り出す。
死ね!
ガキンッ!
刃物とクリスの刀が火花を散らせる。
さすがはクリス・ネイト。一筋縄ではいかないか……
なら、消えてくれますか?
今は、な。
男はあっさりと逃げた。
何だったんだ?
あなたは、彼らに狙われています。
彼らとは、トーチを奪い、能力者による支配をもくろむ組織です。
だから、トーチって何なんだ?
トーチとは、つまり生命の燃えかすです。
燃えかす?
ええ。死んだ人間が最後に残す。世界のバグです。
意味が分からない。燃えかす? 死んだ人間が最後に残す? 世界のバグ?
悪いけど、宗教勧誘ならいいです。
宗教勧誘?
笑顔で刀を首に突きつけられる。
すみませんでした……
話を戻します。あなたはすでに死んでいるのです。
はぁ……
とりあえず同意しておく。
で、僕は生きているんですが?
それはあなたが衣笠悠里のトーチだからです。
すでにあなたは死んでいます。けれど、衣笠悠里の強い思い、簡単に言えば未練があなたを生み出したのです。
完全に電波だ。 危ない人だ。 どうしよう? 警察に電話するべきだろうか?
あの、もうバイトの時間なんで……
はい?
さようなら……
その場でダッシュする。
あー、待ちなさい!
……
バイト、遅くなってゴメン。
ううん、大丈夫だよ。
彼女の名前は祖原(そはら)愛(あい)。幼馴染みだ。
ソハラ。実は今日……
今日あったことを説明する。
それは災難だったね。
いや、まったく宗教勧誘はしつこいって聞くからさ、家にまっすぐ帰っていいのか分からないよ。
なら、私の家に泊まる?
ソハラの家に来たのは小学生が最後だ。
いいの?
珍しく困っているみたいだからね。 特別だよ。
ありがとう。ソハラ。
ソハラの家に来た。 外観は小学生の頃から変わらない。
いやー、今日はお父さんもお母さんも仕事で家に居なくてさ。誰か料理を作ってくれる人が必要だったんだよね。
なら、僕が作るよ。
ありがとう。
泊めてくれる礼だよ。
周りの景色が真っ黒に染まる。
ソハラ!?
ソハラが消えた。そして……
よお……。いい夜だな。
あんた、昼間の……
今度こそ、トーチの残り火を回収させてもらうぜ。
待ちなさい!
昼間の電波女まで現れた。
クリス・ネイト。また邪魔をするのか?
あなたたちにトーチは渡しません。 トーチは最後まで燃やし尽くします。
なら……
男は昼間と違い、刀を抜いた。
やる気ですか?
お前とは戦いたくなかったがな。
行きます!
言葉にするのもおこがましいほど、二人の戦いは激しかった。
火花が散り。 そして……
くっ……
ふふふ。
男は地面に手をつき、肩ではぁはぁと息をしている。
トドメです。
やめろ!
なぜ? あなたを殺そうとしているんですよ?
それでも、殺すのはダメだ。絶対にダメだ!
なら、あなたは先に燃えちりなさい。
女の刀に胸を貫かれる。
ぐ……
さようなら。出来れば最後まで見届けたかったけれど、仕方ないですよね。
まだだ。まだ死ねない。
『ならば、我が名を呼べ』
頭に言葉が流れ込んでくる。
お前の、名前は……
コキュートス……
な、まだ立てるの?!
コキュートス。燃やし尽くしせ。
辺り一面に炎が現れる。
な、何なの?!
手加減は、……できそうにない。
死ぬなよ。