私、先輩のコトが好きです!
これからも好きでいていいですか? ダメです?ダメですか?
勝手にすれば? つーか俺、あんたの名前も知らないんだけど。
私、森崎です。これ、メアドです。 それで、それで、私とつきあってください!
あー、ムリムリ。 俺、好きな奴いるんだわ。
どうしても、絶対ダメですか? だったらせめて……
思い出に……私と、キスしてくれませんか?
しゃーねーな。一回だけだぞ?
ありがとうございます! 大好きです、せんぱ――
…………あわわ。
ガラッ!
優梨! お前、こんなトコで何してんだ?
あ、あたし何にも聞いてないから!
今、ちょうど通りかかっただけで! 教室の中の話なんて全然、これっぽっちも――
聞いてたんだな?
ゴメン……立ち聞きするつもりはなかったんだけど、つい……
そんな事はどーでもいいよ。 優梨、この後ヒマ?
……「どうでもいい」?
断ったの、聞いてたんだろ? 名前も知らない奴からの告白なんて、ブキミだよな。
それより俺、優梨に話があって……
あなたは「どうでもいい」「名前も知らない」「ブキミ」な女の子とキスができるような人なのね?
あれ……なんか、怒ってる?
怒ってないわ。軽蔑してるの。
お、おい、俺の話を……
触らないで! あんたって最ッ低ね、顔も見たくない!
…………ヤバイ。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ……
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ……
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ……
……バイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤ
ボゴッ!
痛って!何でこんなトコに地蔵があるんだよ! 蹴っちまったよ、邪魔だなクソ!
つーか地蔵でもなんでもいい。俺の話を聞いてくれ!
俺、優梨に――好きな子に、嫌われたかもしんない……
優梨と初めて会ったのは、入学式の時だった。
「三年間よろしくね」って言われた。 その笑顔に心臓をブチ抜かれた。 一目ぼれだった。
知れば知るほど、優梨のコトが好きになった。顔も、声も、気の強いトコも、全部。
一年かけて仲良くなって、あとちょっとでつきあえそうってトコなんだ。 なのに、台無しになっちまった……
全部、あの森崎って女のせいだ! 絶対に許さねえ!
……なるほどのう。 しかし、それは貴様のすけべぃ心の引き起こした事ではないのか?
うわっ! じ、地蔵が女のコになってる!?
あの忌々しい石仏に封じられて幾星霜――わしの封印を解いたのは貴様か?
ふ、封印?俺が地蔵を蹴っちまったことか? だったら、何だってんだよ?
大儀であった、褒めてつかわす!
わしはヤコ。天正の昔よりこの山に住まう妖狐、夜狐稲荷権現じゃ。
テンショー?ヨーコ?……あんた、アタマ大丈夫か?
カケマクモ・カシコキイナリノオオガミノオオマエニ・カシコミカシコミモマヲサク!
ポン!
ゲロ!?ゲロゲロゲロ……ゲロゲロゲロゲロ!
可愛らしゅうなったではないか。その姿では憎まれ口も叩くまい。
わしは永の封印で腹が減っておる。 良いか、この先わしを疑う事あらば、その姿にして喰ってしまうぞ?
ゲロゲロゲロ!ゲロ、ゲロゲロゲロ~!
ポン!
踊り食いだけはやめてくれ、踊り食いだけは~!……って、あれ?
我が力、思い知ったか?
あんた……マジでナニモノなんだ?
――貴様は九尾の狐の伝説を聞いたことがあるか?
ある時は、天竺の王子・班足太子の妃である華陽夫人――
ある時は殷の紂王を誘惑し、国を滅亡させた傾城・妲己――
ある時は、鳥羽上皇を骨抜きにした伝説の美女・玉藻御前――
それらはすべて、一匹の妖狐・白面金毛九尾の名前なのじゃ。
妖狐の力は長寿だけにあらず。尾を増やし、妖力を得るのだ――人を惑わし、国を滅ぼすほどの力をの。
人間ふぜいには、決してハなわぬヒからぞ。ヒさまも、わヒに逆らおうなどとゆめゆめホもうで……モグッ!?
なんじゃこれは!この「ぴざ」というものは餅の一種か?ベロンと伸びるではないか!
伸びてんのはチーズ。……つーかアンタ、よく食うな。俺のサイフ、空っぽになっちまったよ……
「アンタ」ではない。夜狐稲荷権現じゃ。貴様はわしによう仕えておるゆえ、特別にヤコと呼ぶことを許す。
ヘイヘイ。で、ヤコさま? その「妖力」とやらって、どんなことができるんだ?
ヒうたところで、ヒさまらヒんげんにはヒかいでヒぬであろうが……モグモグ。
食いながらしゃべんなよ。 ……たとえば、なんだけどさ。
人間の記憶の一部分だけを消す、とかってできんのかな?
ヒさまの……モグモグ、ごくん。 貴様の考えを当ててやろうか?
貴様の好いておる優梨とやらから、今日の記憶を消し去りたい、というところか?
あったりー!今日の放課後の記憶がなくなれば、優梨は俺の事を嫌いにならないわけじゃん?
そしたら先手必勝!明日の朝イチで告って、そんで晴れてラブラブに……!
さようなみみっちい真似は、わしはようせん。
な・ん・だ・よ~! あれだけ奢ったのに、使えねーヤツだな!
代わりに、時を戻してやろう。 貴様が優梨の前で醜態をさらす、その少し前にな。
人の生き死ににも、政(まつりごと)にも関わらぬ、さだめの末枝だ。多少弄ったところで問題はなかろう。
マジで?そんなことできるのか、スゲェ……
永の封印で妖力がありあまっておるからの。 さあ、準備は良いか?
カケマクモ・カシコキイナリノオオガミノオオマエニ・カシコミカシコミモマヲサク!
ちょ、ちょっと待っ……!
……のコトが好きです!
これからも好きでいていいですか? ダメです?ダメですか?
戻った、のか……?
……あの、先輩?どうかしたんですか?
いや、なんでもねーよ…… あんた、森崎って言ったっけ?
私の名前、知っていてくれたんですか! 嬉しいです!すごく、感激です!
で、アンタは俺の事が好きなんだっけ?
はい!先輩、私とつきあってください!
冗談じゃねーよ。
……え?
ろくに話もしたコトもねーのに、好きだとかつきあえとか、アタマおかしいんじゃねーの?
ひ、ひどい……
二度と俺の視界に入るなよ! じゃあな!
ガラッ!
やっほう優梨、マイハニー! 中の話、聞いてたろ?
俺さ!入学した時からずっと優梨の事――
…………最悪。
え?
自分の事を好きだって言ってくれる女の子に、よくあんな事を言えるわね。 見損なった。
お、おい、俺の話を……
触らないで! あんたって最ッ低ね、顔も見たくない!
……………………。
……アレ?
後編へ続くのじゃ!