ときは西暦2012年12月23日。 この日を境に、世界中で様々な不可解現象が観測され始めた。 ある国では箒で空を飛べるようになり、またある国では、右手に宿した炎でファイヤーパンチを打てるようになった。 そしてここ日本でも、おかしなことが次々と観測されていき…… 遂には暗黒の闇より出でし悪魔…… ゲラが現れたのだ。
ゲラ! げらげらげらげら(笑い声) ゲラ! 俺の名前はゲラ! 暗黒の力の使い手! どちらかと言うとこじらせ系! ゲラ! げらげらげらげら(笑い声) ゲラ! この国を破壊して! クリスマスをバースト! 支持者はモテない系! 町へ繰り出して! カップル撲滅! ゲラ! げらげらげらげら(笑い声)
その頃、とある学校では―― (放課後のチャイムが鳴っている)
よし! 今日の部活動はここまで! 最近、色々と物騒だから家まで送って行くね、菜月ちゃん。
はい、ありがとうございます。 でも部長、今日は稽古場に向かう予定なんじゃ……
そんなこと、気にしないの! 可愛い後輩のためなら、ちょっとぐらい遠回りしたって構わないわよ。
きょ、恐縮であります……
なら早く行きましょ。 もうすぐ日も落ちるわ。
鞄を拾い上げて、出口へと向かう。と、そこに――
ガラガラ(扉の開く音) 廊下に誰か立っている。
あ、菜月ちゃん。 やっぱり部室にいたんだね。
み、みずきくん! ど、どどどうしてここに!?
こないだ借りたAKBのCDを返そうと思って、持ってきたんだ。
そんな、別に今日じゃなくてもいいのに……
出来るだけ早く返して置きたかったんだ。それに、早くCDを持って来れば、また――
菜月ちゃんと、たくさんお話しできるから!
う、うん(みずきくんって、やっぱり素直でいいな)
ちょうどいいところに来たわね、みずき
あ、姉さん。今日は稽古場に行かないの?
今から行こうとしてたところよ。みずきあんた、菜月ちゃんを家まで送って行ってあげなさい。もうすぐ暗くなるから、一人じゃ危ないでしょ。
うん、分かった。じゃあ行こっか、菜月ちゃん
え!? でも、部長は……
私は稽古があるから、付いていけないの。ごめんねぇ菜月ちゃん! じゃ、また明日ね、ばいばーい!
部長は、菜月に向かってウインクを一つ残し、その場を去って行ってしまった。
(行ってしまわれた……どうしよう)
じゃあ帰ろっか、菜月ちゃん。
ふ、ふえぇっ!? う、うん。か、かか、帰ろう、か(落ち着け、私。今日はクリスマスだからって、そそそんなこと……ドキドキ)
こうして二人は帰途につくこととなった。外は次第に日が落ちてきて、夜を迎える。
シャカシャカシャカシャカ(謎の音) シャカシャカシャカシャカ(謎の音) 謎の音が次第に近づいてくる。それは――
二つのマラカスの音であった。誰かが両手にかざして、振っているようだ。
シャカシャカシャカシャカ(マラカス) シャカ! おい、やべぇぜこの辺! リア充臭がぷんぷんするぜ! カップル探せ! シャカシャカシャカシャカ(マラカス) シャカ! あそこに見えるのは! リア充キタコレ! ためらうことなくバースト系!
ゲラ、男女に向かって突撃を試みる。
そうなんだ、菜月ちゃんはじゃあ、ゴーヤチャンプルーは苦い方が好きな派なんだね。
うん。塩漬けとかもしないタイプだから……
ドン! という音がして、みずきの身体が吹き飛ぶ。
えっ、みずきくん!?
菜月が目をやる。先ほどまでみずきがいた場所には、別の生命体が立っていた。
うらぁぁぁぁぁぁぁぁ! リア充爆発しろやぁぁぁぁぁぁ!
え、なに? この人……というか人?
足元に目を向けると、みずきが転んでお尻を押さえていた。
み、みずきくん!? どうして!?
俺がやったったわ、おらぁぁぁぁ! 当然だろがうらぁぁぁぁぁ! なにイチャついとんじゃボケナス!
み、みずきくん、大丈夫!?
菜月ちゃん! に、逃げるんだ、君だけでも……
そんな……そんなこと、出来ないよ!
いいから早く! こいつは、あれだよ! 最近よく街に出没する、暗黒の闇より出でし悪魔、ゼナだよ!
ちげぇよ! ゼナじゃなくてゲラだ! ゲラ!
量産型の悪魔だよ!
ちげーよ! オリジナルだっつうの! 勝手に格下げんなよ! まぁ、いいや。これからお前らの仲をずたずたに引き裂いてやるかんな!
僕たちをどうしようって言うんだ!?
こうするに決まってらぁ!
ゲラ、手にしていたマラカスを投棄して、菜月の手を握る。
え、なに!?
今日からお前は俺の、かか、彼女だゲラ!
やだっ! 離してっ!(ぬるぬるしてて気持ち悪い……)
大人しくするゲラ! うへへ、これでその男との関係も終わりだゲラ!(ついでに彼女ゲットだゲラ!)
ゲラ、強引に菜月を連れて行こうとする。が、菜月は動こうとしない。
抵抗するんじゃないゲラ! ほら、あそこにラブホテルがあるゲラ! 入るゲラ!
ヤダ! 絶対ヤダ! 死んでも行くもんか!(あれ……この悪魔、思ったほど力強くない……かも。腕細いし。もしかして、勝てる?)
オラオラァ! さっさと来いゲラ!(これで俺も童貞卒業だゲラ)
ゲラ、身体が浮遊する。世界が反転していることに気付く。菜月が一本背負いを仕掛けたのだ。 ズドンッ! 頭からコンクリートの地に叩きつけられたゲラ、『げらはっ』と呻いて、そのままぐったり、動かなくなってしまった。
……
……
(やった……のかな? 悪魔を倒しちゃった)
そうだ、みずきくん! 大丈夫!?
うん、大丈夫だよ菜月ちゃん。ちょっと転ばされただけだから。
よかったぁ。みずきくんが怪我でもしたら私、正気を保てなかった、かも。
僕もあのまま菜月ちゃんと、引き離されるんじゃないかって、すごく心配したよ。無事でよかった。
ふぇっ!? (そ、それって、つまり……やっぱり私のこと……ドキドキ)
それにしても、さっきの一本背負い、すごかったね!
え、ああ。うん。護身術として部長に教わったの。
姉さん直伝だったんだ。どうりで強いわけだ。それじゃあ菜月ちゃん、そろそろこの場を離れよっか。
みずき、菜月の手を握って歩き出す。菜月は少し進んだところで、足を止める。
ちょっ、ちょっと待って! あの人、じゃなくてあの悪魔、どうするの?
菜月は、道の真ん中で仰向けになっているゲラを指差して、訊ねた。
いいよ、あの悪魔は放っといても大丈夫だから。コンビニの店員が掃除してくれるよ。
ええっ!? でも、私もしかしたら、大変なことしちゃったんじゃ……殺人、てことになるのかな。
ならないから、安心して菜月ちゃん! あいつは人じゃないんだから。例えるなら、道端のゴキブリを踏みつぶしたのと同じさ。
ああ、うん。そうだよね! なにもおかしなことしてないよね!(やっぱりみずきくんって、頼りになるな)
じゃあ、いこっか!
二人は手を繋ぎ、夜の街へと消えて行った。
歩道を行く人影はなく。辺りに静けさが戻る。
……
……
ゲラの指先がピクリと動いた。間もなくして、おもむろに身を起こし、小さく呻き声を上げる。
いてて、くそ! あの女、やってくれたゲラ! 向こうも暗黒神拳の使い手だったとは、油断したゲラ。
凹んだ後頭部をさする。真ん中がちょうどうまい具合に凹んでいて、お尻のような形になっていた。
ゲラは怒りを露わにしつつも、地面に転がっているマラカスを二本、拾い上げた。
ふうっ、これは大丈夫だったゲラ。あいつら、俺の弱点を知らなかったようだゲラ。げらげらげらげら(笑い声)
ゲラを倒すには心臓と脳みそのいずれかを破壊しなくてはならない。しかしその両者は、マラカスに入っていたのだ。
ちなみに凹んだ頭部には、胃と大腸が詰まっているゲラ! 胃液が逆流してきたゲラ! ゲボゲボゲボゲボ(嘔吐)
ひとしきり胃の中を吐きだした後、ゲラは不敵な笑みを浮かべ、呟く。
あの女、許さないゲラ。絶対にあいつらの仲を引き裂いてやるゲラ。そして―― 俺の彼女にしてやるゲラ! ゲラ! げらげらげらげらげら(笑い声)
かくして悪魔ゲラは、人類根絶という本来の目的を忘れ、一組のカップルに対する私怨を晴らすべく、夜の街を駆け巡るのであった――
続く?






