今日が20代最後の日か…。
俺のスペック。29歳ヒキニート。彼女いない歴=年齢。もちろん童貞。
俺の人生こうなるはずじゃなかった。
くそぉ…、人生やり直したい…。
タイムマシンでもあればなぁ…。そう思っていた俺だったが、
あー、やっぱ『俺の心がこんなに乙女な訳がない』面白いわ~。次回が気になる。
(TVの声)タイムマシンを自宅で作れる!
ん、何だ?
毎週届くパーツを組み立てると、タイムマシンが出来上がる。
週刊タイムマシン 創刊号は今だけ790円!
こ…、これは…。
俺が探し求めていた、タイムマシンじゃないか!!
何という絶好のタイミング。俺はすぐ購読を申し込んだ。
数日後。
お届け物でーす。
来た! 念願のものが!
ベリベリ! 俺は急いでダンボールを開けた。
なになに? タイムマシンに関する小難しいことが書いてある冊子と…、
何だ、このガラクタ鉄くずは…? タイムマシンのパーツか何かか?
てか、これだけしか入ってねえのか。先が思いやられるなぁ…。
最初の頃に届くのは、どこに使うのかがさっぱりわからない部品ばかり、組み立ててるって感じがしなかった。
しかし数ヶ月経過すると…、
あれ…、今週届いたこの部品と、前届いたあの部品って…。
やっぱり! 組みつけられた!
部品が集まってくると、たまに組み合わせることができ、それがとても嬉しく感じるのだ。
次の部品は何かな? 来週が待ち遠しい…。
早く1週間過ぎないかな?
俺はふと、請求書を見る。
増刊号は割と安かったが、その次の週から毎週3千円だからな~。そろそろ親からの小遣いが…。
……。
アルバイト、してみるか…。
俺は、週刊タイムマシンの購読料を払う為に、アルバイトをすることにした。
アルバイトをしたら、一日中部屋に引きこもっていた時より、一日があっという間に過ぎていくような気がする。
しかもお金も貰えるし、ただ一週間ぼーっと待っているより、こっちの方が効率いいね。
つらい時もあったが、タイムマシンを完成させる為だと思えば乗り越えられた。
徐々に全体像が見えてくる喜び。
完成に一歩一歩近づく度に、高まるテンション。
俺の頑張りに着いてくるかのように、充実していく身の回りの環境。
バイトリーダーになったり、合コンで知り合った子と付き合ったり、
親元を離れ一人暮らしをしたり、某大手自動車製造会社に就職したり、
幹部に昇進したり、結婚したり、子供ができたり、車や家を買ったり、家族で海外旅行したり、
出会い、別れ、成功、失敗…、色んな人生のターニングポイントを迎える度に、
親友であるお前(タイムマシン)と、よく酒を飲み明かしたな。俺の愚痴や悩みを黙って聞いてくれてありがとう。
創刊号からもう数十年経つ。
部品と一緒についてくる冊子は、専用の書庫を設けるほどの膨大な量になった。
何度も読み返していくうちに、全ての記述が頭の中に入ってしまっていた。暗唱もできる。
そして週刊タイムマシンは…、最終号を向かえ、ようやく完成した。
俺は最後の1パーツを組み付けた瞬間、達成感や多幸感からか全身の力がふっと抜けた。
106歳…。大往生じゃないか。
俺はもう十分生きた。このまま死んでも後悔しない。
タイムマシンは使わないのかって? いいや、戻る必要なんて無いのさ。
今タイムマシンを使って過去に戻ってしまうと、幸せだったこの人生を否定してしまうことになる。
愛し愛されてきた家族が、思い出が、無かったことにされてしまう。それだけは嫌だ。
ただ今まで払ってきた購読料は無駄になるけどな…。一体総額でいくら払ったことになるんだろう。
あぁ、もう数えるのも面倒臭いや。タイムマシンは遺産として子供達にでも贈与してやろう。
週刊タイムマシン…、お前がいたから俺は変われた。幸せになれた。
俺と出会ってくれて…、ありがとう…、な。
……。
タイムマシン「ウィーン…」
今日が20代最後の日か…。
俺のスペック、29歳
ピンポーン
誰だ? 人が自己紹介している最中に…。
はーい。
ガチャ。
…あなたは?
会いに来ちゃった。
タイムマシンで、遠い未来から。
その出会いは、俺の人生を大きく変えた。