Ep.06 寒い日にはかじかんだ手を
寒ィ・・・人多ィ・・・帰リタィ・・・。
今更ここまで来てなに言ってるのよ、猫熊くん?
あ、今更だけど、あけおめ!
あけおめ・・・。っていうか、俺たち何しにここに来たンダっけ?
決まってるじゃん。
猫熊くんが、試験当日に失敗しないように願掛けしにきたんだよ?
あれ、そうだったっけ・・・?勉強やり過ぎて、逆になんのために勉強してるのかすら憶えてないカンジだったわ。
もう、しっかりしてよ~っ。猫熊くん受験生なんだよ!?
っていうかさ、ユキコ。俺の合格を願ってくれるのはうれしいけどさ、
せっかくなンダから、自分のお願いしろよ。
私のお願いは、猫熊くんが志望の大学に合格できること。ホントにそれだけなんだから。
まったく、相変わらずお人好しが過ぎるぜ・・・。
そういや、猫熊くん。さっき売店でね、こんなの買っちゃった!
・・・合格消しゴムぅ?
使い切れば志望先合格間違いなし、だってさ。御利益ありそうじゃない?
うさんくせぇ・・・。たかが消しゴムだぜ?
ゲン担ぎのつもりだと思ってさ、ほら、おひとつどーぞ。
・・・こんなの試験中に使ってるの見られたら、恥ずかしいだろ。
ま、いいや。サンキューな。
うん。試験、頑張ってね。
あ、そうそう。もうひとつ、プレゼントがあるんだよ。(ごそごそ)
はい、コレ!
これ・・・手袋?
いやなに・・・、かじかんだ手じゃあさ、鉛筆うまく握れないんじゃないかなーって思ってさー。
そんときゃ、転がすからいいよ。
ちょっ・・・、猫熊くん!?
冗談だって。ははは。
もうバカ・・・ちょっと本気にしちゃったじゃない。
・・・ユキコ。
俺・・・今年こそさ、絶対にお前と同じ大学に合格するから。
・・・うん、待ってる。
・・・・・・。
・・・今思い出したんだけど、今年猫熊くんから届いた年賀状・・・。
あれ、文面の字が幾つか間違ってたんだけど・・・。
・・・・・・。
・・・、な、なんくるないさぁ~・・・。
お願い、現実逃避しないで。
そんなこんなで、とうとう運命の日がやってきた。
「それでは、試験はじめ!」
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・ふぅ。
試験終了後。
俺のペンケースから、ユキコからもらったあの合格消しゴムは姿を消した。
残ったのは、大量の消しカスと、そして・・・。
続く。