“アイ アム バッドラック”

僕の何が悪かったのか?

成績は悪くない。 運動神経も悪くない。 顔も、スタイルも悪くない。

しいて問題を挙げるなら、僕が同じ学年を4回も繰り返してることだろうか?

担任の出席チェックミス、万年五月病、誤認逮捕、不要物持込みでのペナルティ……

不運に次ぐ不運で、僕はたびたび出席日数が不足して、3回も留年する羽目になった。

……そう、運だ。

今日の僕も、運が悪かった。 そう思うしかない。

いや、でも、もしかしたら……実は運がいいのかもしれない。

こんな状況でも、まだまだ生きてるんだから。

15分前……

「はーい♪ 良い子のみんな♪  朝のHRを始めるニャン♪」

ついに担任が発狂したか。

お見合いに敗れるたびに壊れていく担任を見てきた僕たちは、特に驚くこともなく現状を受け入れた。

担任は今まで、コーヒーにチョークの粉を入れて飲んだり、雑巾で自分の顔を拭いたり奇行を重ねてきた。

先週の金曜なんか、網タイツを履いて、鞭を片手に出勤して、そのまま家に帰されたらしい。

つまり『こんなこと』になったところで今さらなわけで、授業さえしてくれれば僕たちに不満はなかった。

「こぉら、ヴァレンティーノくん!  先生の話、ちゃんと聞いてた?」

「え? なんで僕が先生の話を聞く  っていうのが前提なんですか?」

「ただでさえ先生の露出が多くて  不愉快なんですから、これ以上  僕をイラつかせないでください」

「行き遅れの肌なんか見たって、  嬉しくもなんともないんだよな」

「どうせ見るなら、  若くてピチピチで  肌に皺が寄ってない女子に限る」

「僕は自分に正直な男だ。担任が  傷つこうとも、僕は自分の趣味を  見直すつもりはない」

「あと、僕の名前は『安岡 リカルド』」

「ヴァレンティーノなんて名前が  出てくる余地はどこにもないし、  実在の人物とは無関係だ」

「あー、ヴァレンティーノくん。  独り言はもういいかしら?」

「はい、もう結構ですよ。  少しはスッキリしましたから」

「あらそう、そりゃ良かったわ。  あとで鞄持って職員室に来いや。  あとはもうそのまま帰っちまえ」

これだから若作りは困る。

更年期障害は、早くも担任の精神を蝕んでしまったらしい。

まぁ、前向きに考えれば、早退する正当な理由ができたわけだ。

ここは、担任の更年期障害に感謝しよう。

ビバ、更年期!

「はい、じゃあ安岡くんが出席日数  不足で留年決定したところで、  朝のHRは終了します」

「先ほども注意しましたが、最近  このあたりでツキノワグマと  遭遇する事件が発生してます」

「10時前後に遭遇する事例が  多いので、死にたくなければ  早退なんてしないでくださいね」

「あのー、先生。  今まで黙ってましたけど、僕、  先生のことが大好きなんです」

「ふーん……それで?」

「あ、いや、その……  昼まででいいから、先生と一緒  に学校で過ごしたいなーって」

「ナマいってんじゃねぇよタコ。  諦めてクマに食われて来いや」

命運尽きたか。

そう思ったときだった。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「クマだぁぁぁぁあ!!」

「ツキノワグマだぁぁぁあ!」

教室にクマが入り込んできて、 混乱が吹き荒れた。

「あ、ちょ、待っ」

「がはぁっ!?」

「カ……カルロォォォス!」

「……も、もうダメだ。  エビータ、おまえだけでも……」

「男なら最後まで戦え、腰抜けめ!  クラスメイトを逃がすんだ!」

「ちょ、クマいるってば!  まだそっちにクばはぁ!」

「ちっ……使えないヤツだったな」

「ここは俺に任せろ!  俺のオーバーテクノロジー空手  があればクマなんかイチコロ」

「ごばぁっ!?」

「クソ! 権田川までやられたか!」

「落ち着けマルゲリータ!  ヤツは四天王で一番の格下!  まだ我々がいるではないか!」

「貴様なら十分にやれる!  クマ如きに怯むでない!」

「そ、そうだったな! 四天王の私がクマなんかに負けるはずない!」

「っしゃあ! いくぜクマ公!  オヤジ直伝! 32文ドロップ」

「うわらばっ!」

「も、もうダメだぁぁぁあ!  鬼殺しのマルゲリータさんでも  クマには勝てなかったんだ!」

「ヤダー! もう学校ヤダー!」

と、そんな風に教室が混乱している中、俺は偶然発見したダンボールに潜り込むことに成功した。

あとはクマが狩りに飽きるのを待つばかり……そう思ってたんだけど。

このままクラスが全滅するって流れだったのに、四天王のコマチョフさんが意外と善戦してくれた。

あ、コマチョフさんはこの人ね。

とにかく、おかげさまで、動けるヤツらが動けないヤツらを運んで、残らず撤退することができた。

ダンボールに隠れた、僕を除いて。

まぁ、そんな感じに紆余曲折して、こんな感じの今に至る。

正直、この状況はマズい。

クラスメイトが助けに来る可能性は皆無、クマが教室からいなくなる気配も今のところはなし。

メ○ルギアなス○ークみたいに、 ステルス・ダンボールができれば逃げきれそうなんだけど……

現実は、そうそう甘くない。

さっきから僕は、クマが視線を外した隙を狙って、少しずつ移動している。

少しずつ少しずつ、廊下に向かって移動してる……してるんだけど。

クマは、見るたびに位置が変わってるダンボールに興味津々。 ついに視線が外れなくなった。

いや、もうそういう問題じゃない。

のっそのっそと、緩い歩みだけど、 確実にクマが近付いて来てる。

興味本位で叩き潰されたりしたら、さすがに僕もお陀仏するしかない。

ここはもう、一か八かで、ダンボールを脱ぎ捨てて窓から飛び降りるか?

僕が、骨折する決心を固めたときに、その人はやってきた。

「なんだぁ? もう1限の時間だってぇのに、誰もいねぇじゃねぇか」

重役出勤の常連、パン田 ヤスヒコさん。

四天王をまとめあげる、この学校の影番だ。 ……そこ、古いとか言わない。

とにかく、無敵のパン田さんが来たからには、ツキノワグマの1匹や2匹くらい……

「あん? なんだ、このダンボール」

…………

…………

「なにやってんだ、オマエ」

「いや、もう……なんかどうでもいいです」

その後、パン田さんがツキノワグマと死闘を繰り広げたり、巻き込まれた僕が大ケガしたりしたんだけど。

一番大事な出席日数不足の件はうやむやにならず、また同じ学年を繰り返すことになった。

また1年、あの更年期担任と同じ空気を吸わなきゃいけないと思うと、息苦しくって仕方ない。

来年こそ、卒業できますように。

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Posted at 2012/09/18 19:44 Viewed 24 times

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