「ねぇ……」
耳元で彼女が囁く。とても甘ったるい猫が鳴くような響きに、どうしようもなく胸がキュンとなる。いいや違う。これは危機を報せるサインだ。
「その太くて黒いのちょうだい……」
「お前ほんと底なしだな。もうだめだって」
ボクにだってプライドがある。もうこれ以上、彼女の言いなりばかりではいられない。一方的に奪われてばかりではたまらない。身体を翻して背を向け、絶対死守の構え。
「ケチ! そんなの認めない! 許さない!」
彼女は獲物に飛びつく猫のような素早さで背後から襲いかかると、両の手でボクの右腕を押さえつけた。抗う術は無い。その欲望の赴くまま、ボクの最後の希望を略奪する暴虐王。
「ああっ!」
「へっへっへっ」
彼女はボクの右手から「黒棒」を奪い取ると、かぽっと口に咥え込み、にんまりと笑う。
「ひでぇ……」
ボクが楽しみにしているおやつは、いつもこうして彼女に横取りされてしまう。