ちかー!! 遅いってー
え、あ、ごめんごめん
懐かしい声が私を呼んだ。
何やってたの?
ちょっと電車を間違えちゃってさ
嘘をついた。この場所に来るのに、何故か躊躇いがあっただけ。
ちょっと、三年間も通ったのに、たった四年で忘れちゃう? せっかく母校の文化祭なのに、回る時間なくなっちゃうよ!!
何に躊躇ったんだろう? 分からない。
なんか、心の柔らかい部分を突付かれるような、妙な辛さと切なさだけが胸にあった。
や、や、ほら。最近忙しくて、ぼーっとしちゃってね
忙しいって、何かやってんの?
ほら、就活とか卒論とか色々あんのよ
そうなんだ? 調子はどうなの?
え? まぁ、内定はいくつかもらえたけどさ……
もらえたけど……。
ふ~ん、凄いじゃん。なんか大学生って感じだね
大学生って感じって、あんただって大学生でしょう?
あっはっは、それがさ。私、大学辞めたんだ
……なんでよ?
色々あってね
じゃあ今、何やってるの?
バイトと養成所通いで、いっぱいよ
養成所?
うん。私ね、どうしても、ほら、女優とか声優とか? 役者になりたくてね
そっか
そうなんだ
そう語る彼女の笑顔はとても綺麗だった。
夢があるって素敵ね
夢なんて、誰だっていつだってあるでしょう?
そんなこと無い。夢なんか無い。夢なんか消えてしまう。
私の人生はもう、何一つ目指すべき光が無い。それは全てのライトが落ちてしまった舞台と同じ。だから、あとは終幕を待つだけ。
そう考えると、終幕までの幕間が長く感じる。
ふ~ん、なんか大人っぽくなったわね
ふっふっふ。それなりに大変だったからね
あ、先輩! お久しぶりです
あら、本当に久しぶりね!
何、知り合い?
部活の後輩だったのよ
先輩、私が現役の頃は一度も文化祭に来てくれなかったのに……
悪かったわよ。ごめんね
もう。それなのに今年はまた何で?
え? あぁ、この子に誘われてね
あ、そうだったんですか?
えっと、あれから四年って事は、あなたは今大学生?
いえ、私は進学しなかったので、働いてますよ。毎日大変ですよ
そっか
私の後輩だったのに、社会では私の先輩か……。
それでも、毎日楽しいですけどね
こっちもいい笑顔。
夢でも叶ったの?
? 夢ですか? 別にそんな事はないですけど……。でも、夢なんてどこにもあるんじゃないですか?
そうかしら?
そうやって、適当な事を言う。
夢を目指してる人には分からない。夢が無かった人には分からない。
社会に適合して、歯車になって、生きるためのお金を得る為だけに働いて、人生の大半をつぎ込む。その意味の重さ、重圧、苦しさ。
ほら、働いてて嫌な事なんていっぱいありますけど、そんな日々の中でも笑えることがあったら、それが夢だったんじゃないかなって。
夢って言うのは形が無くて、色々と追いかけたくなりますけど、でも本当は常に側にあって、昔描いたような大層なものじゃなくなってますけど、それでも日々の中に必ずあるんじゃないですかね?
そっか、何でこの場所に来るのに躊躇したのか分かった。
なんか、後輩にまで偉そうな事言われちゃうとか、私って大学で何やってたんだろうね
自分が夢を描いていた頃の事を思い出したくなかったから。どんな可能性でもあった頃を、思い出したくなかったから。
え!? そ、そんな偉そうなことだなんて…!!
ふぅ、やっぱり私、疲れてたのね。よし、今日は思いっきり遊ぼう!!
まずは、屋台全制覇だよね?
よぉし!! いっちゃおう!!!
今の自分と昔を比べちゃうからなんだ。
でも、今の自分だって嫌いじゃない。
社会に適合しようって思えるだけ成長した私だって立派だと思う。
そうやって、日々を積み重ねる大事さを学んだこの四年間は、無駄じゃなかったと胸を張ろう