○佐藤家・外観 一般家庭よりは、少し大きな外観の家。 門柱には『佐藤』の表札が出ている。 家からはバイオリンの音が響いている。
○同・防音室(夜) 大きなグランドピアノに背を預け、腕を組んでいる佐藤みちる(30)
みちるの正面で暁小夜音(17)と、 神谷絵梨花(18)がバイオリンを弾いている。
みちるは二度、大きく手を叩いて、
みちる 「そこまで。もう、いいわ」
バイオリンを肩から下ろし、みちるを見つめる小夜音と絵梨花。
みちる 「絵梨花、あなた もっと練習していらっしゃい」
みちる 「小夜音は、肩に力が入り過ぎね」
みちる 「でも、他は完璧よ」
みちるの言葉に、満面の笑みを浮かべる小夜音。 絵梨花は唇を噛みしめ俯く。
○住宅街・道(夜) 手ぶらの絵梨花と、その後ろを バイオリンケースを左右の手に持つ 小夜音が歩いている。
絵梨花 「小夜音さぁ、みちる先生に褒められたからって調子に乗らないでよね」
バンスで纏めていた髪を解いて、後ろを歩く振り返り小夜音を見る絵梨花。
小夜音 「絵梨花ちゃん、私は調子に乗ってなんか!」
絵梨花 「……あたし、まだ許してないから」
風が吹いて、 絵梨花の長い髪が揺れる。
目を見張り、 その場に立ちすくむ小夜音。
絵梨花 「だって、あんたには笑う資格なんて、ないでしょ?」
冷たく笑って、 小夜音を見つめる絵梨花。
○紅百合学園高校・外観
○同・音楽科・レッスン室 目を輝かせ、うっとりした表情の後輩たちに囲まれる中で、
小夜音がバイオリンを弾いている。
* * *
小夜音、バイオリンをしまいながら、
小夜音 「……譜面通りに弾くのは当然だけど、演奏って体調や メンタル面でも左右されやすいの。そういう部分は気をつけないとね」
後輩A 「さすが先輩、かっこいいです!」
小夜音 「もう嫌だなぁ、私は本当に当たり前の基本を言っただけで……」
と、外からカンカンと何かを叩くような音が聞こえ、瞬間、ハッとした表情で口を噤む小夜音。
後輩B 「あの、佐藤みちるさんに師事されているんだから、当然じゃないの!」
後輩C 「確か、佐藤さんって小夜音先輩しか弟子を取ってないんですよね? 先輩って本当にすごいです!」
小夜音、大盛り上がりをする後輩たちを前に、顔を強張らせる。
小夜音の視線の先、わずかに開いた扉の隙間から、にこやかな笑みを浮かべる絵梨花が立っている。
絵梨花 「みちる先生の弟子が凄いのなら、 あたしも 凄いって事になるのかしら?」
絵梨花の声に振り返った後輩たち、大慌てで一礼しバタバタと走り去る。
絵梨花 「へぇ……使えない上級生には、挨拶もなしなのね。 もっとも、あんな子たちがプロになろうだなんて許されないけれど」
小夜音 「あ、あの子たち、用事があったみたいで元々急いでいたのよ。 ただ、課題曲で少し悩んでいたみたいで、私に相談を」
絵梨花 「あら、そうなの。なんて、可哀想な子たち…… 小夜音みたいな子に教わったって、何の意味もないのにねぇ?」
声を上げて笑う絵梨花から、視線を逸らす小夜音。
絵梨花の足元を見つめて、
小夜音 「全部、私が悪いよ。 でも、私は……」
絵梨花 「言い訳するつもり?! あたしの足が、こんなになったのは 小夜音のせいなのに!」
小夜音を睨む絵梨花、杖をついている。
絵梨花 「あたしは、こんな足じゃプロになんてなれない。 みちる先生の下に居たって……」
絵梨花の低い声に俯く、小夜音。
絵梨花 「だからね、小夜音? 小夜音はこれからも あたしのために生きるの。だって……」
絵梨花 「あなたは、プロになれるんだもの……」
○小夜音の部屋(深夜)
ベッドに腰掛け、アルバムを見ている小夜音。
写真には、16分の1サイズの小さなバイオリンを手に、 もう一方の手を繋いで立つ、子供の絵梨花と小夜音が写っている。
小夜音 「絵梨花はずっと、私の遥か上にいた」
アルバムを捲った先にも、
同様の、仲の良い2人の
写真ばかりが続いている。
絵梨花と小夜音の手には、どの写真も必ずバイオリンが握られている。
再び捲ったページには、 『小学生バイオリンコンクール』との看板が飾られたホールでの、トロフィーを持った小夜音の笑顔があった。
絵梨花の声 「あなたは、 プロになれるんだもの……」
アルバムを音を立てて閉じ、
笑う、小夜音。
小夜音 「でも、そうよね? 私はプロになれるのよ……」
小夜音 「いつまでも、絵梨花の世話なんて するものか」
小夜音 「だって……あれは、 ただの不幸な事故だったんだもの」
【狂った主旋律】 =前編= 脚本・制作:如月あい
当作品はフィクションであり、また3年前当時のものを言い回しのみ加筆修正でお送りしております。完全素人時代のものですので、その旨も併せてご了承下さい。






